好きの海に溺れそう

~海琉~

杏光が来た日、店長に「例の幼なじみってあの子?」と聞かれた。



どうやら、夜ご飯を作ってと言ってたときに聞いてたらしい。



「そうです」

「言ってたとおり、ご飯作らせるんだね~」

「わけわかんないですよね。俺、奴隷?」

「でも海琉くんもまんざらじゃなさそうだったけど」



店長は、俺のことを海琉くんと呼ぶようになった。



俺も、「店長さん」から「店長」と呼ぶようになって、ますますバイトの一員になれたみたいで嬉しい。



それにしても、まんざらじゃないって…。



まあ確かに、料理するのは楽しいしそれを頼られるのは嬉しい。



だから文句言わずに作っちゃうんだと思うし…。



杏光の小さな変化は、前の違和感からまた少し雰囲気が変わった。



なんとなく前よりちょっとだけ優しくなった気もする。



最近は杏光の新しい表情ばかり見てるな…。



不思議…。



相変わらず、その変化の正体がわからないまま、気になる気持ちだけが強くなっていく。



本人が何も言わないから、多分俺が聞いても答えになるようなことは言われなさそうだし…。



うーん。



そして、ごはんを作ってと言われることが前よりも増えた。



週に何回か暮名家にごはんを作りに行って一緒に食べてる。



夏休みで家にいる時間が多い分、共働き家庭だから、自炊しないといけない時間も多くて面倒なんだろうな…。



頼られてるのは素直に嬉しい。杏光の家で食べるの楽しいし。



今日も杏光に夜ご飯をお願いされ、杏光の家に行った。



今日は悠麗と玖麗もいた。



二人で仲良くゲームしてる。



「おかえり。今日の飯、海琉だろ?杏光に聞いた」

「今日の、というより今日も、だけどね…」



俺が言うと、杏光が「でも海琉のごはん本当においしいよ」と言いながら部屋から出てきた。



そんな真っ直ぐ言われると普通に照れる…。



今日は、簡単な二色ごはんとお吸い物、小松菜のおひたしと、ポテトサラダ。



暑いから簡単に…。