好きの海に溺れそう

あたし、好きな人ができたら必ず海琉に言ってた気がする…。



でも今回は言わないよ。



ちゃんと気持ちを温めてから言いたいから。



「教えな~い」

「なんで? 教えてよ」



まだ教えない。



自分の気持ちは大切にしたい。



「あのカップルみたいに海琉は車道側歩いたりしないの?」

「杏光、男がわざわざ車道側歩くの嫌いじゃん」



その通り…。



あたしひねくれてるから、そういう男は嫌いだ。



そういう風に守られたいって思わないし、あたしだって恋人のことを守りたいと思っている気持ちは同じなのに、なんで相手が男ってだけで守られる側が女のあたしなの?



「さすが海琉、よく知ってるね」

「だてに杏光の幼なじみ16年やってないよ」



そういう海琉はちょっと誇らしげ。



だけど、改めて気づいてしまった。



そうだ…。



海琉にとってあたしはただの幼なじみ。



それ以上でも、それ以下でもない。



改めてそれが痛いほど分かってしまった。



あたしの心と同じように切なげに風が吹く。



前のカップルの笑い声と、あたしに話しかける海琉の声が、それを現実だと知らせた。