好きの海に溺れそう

「今日家に誰もいないのに鍵忘れたから泊めてもらうの!」

「バカじゃん」

「うっさいな」



実は、海琉と話しをするのは夏休みがはじまってからはじめて。



夏休みの期間からバイトをはじめた海琉は忙しくなってしまった。



「杏光ちゃん、お風呂入って?」

「はーい! ありがとう」

「寝間着は海琉のスウェット使ってね?」



か、海琉のですか…。



お風呂から上がると、グレーのスウェット。



着てみると、海琉の匂いに包まれた。



香水をつけない海琉の、優しい洗剤の匂い。



急に勢いよく心臓が動き出した。



どうしよう、すっごくドキドキする…。



この感情…。



ちょっと待って…。



信じたくないけど…。



あたし、海琉のこと…好きなんだ…。



そう思った瞬間にドキドキが増して、海琉に恋してる自分が信じられなくなった。



海琉に恋するなんてあり得ないって思ってたのに…。



だけど、モヤモヤと心の中に引きずっていた感情がはっきりとわかったからか、不思議とスッキリしたりもして。



彼氏と別れなきゃなんてそんな冷静なことを考えたりした。



海琉の部屋に行くと、ベッドの上で漫画を読んでた。



「海琉、スウェットありがとね」

「ん~」

「海琉はまだあの子のこと好きなの?」

「どうしたの? 急に…」



海琉が漫画から顔を上げた。



「好きって言われれば…どうなんだろうね。よくわかんない…」



ならあたしにも勝つチャンスはあるってことだ。



あたしは、好きって決めたら相手も好きになるまでとことん粘るよ。



あたし、海琉が欲しい。



切り替えはやいな~…。



でも自分の感情に嘘はつけないもん。



海琉を好きっていうのも悔しいっていうのはあるけど、好きになっちゃったんだからしょうがない。