『かくとだに えやは伊吹の さしも草
さしも知らじな 燃ゆる思ひを』


君を想うと、あの和歌を思い出す。

あれは恋した人に贈る和歌だった。

それに気づいたのは雅臣先輩が卒業して、しばらく経ったある日の事だ。

私はひとり、部室に残されていた百人一首の本を読んでいた。

和歌に興味があったわけじゃない、そこに和歌しかなかったのだ。

ひとりぼっちになった部室の中に残されていたのは、数え切れないほどの和歌の本。

寂しさを埋めるように読み漁った和歌集の中で、ついに見つけた。

百人一首51番、藤原実方朝臣(ふじわらのさねかたあそん)の詠んだ恋の和歌。


雅臣先輩が私の心に刻んでほしいと言った、あの和歌だった。