「それは……雅臣先輩のせいじゃないですよ」


何にも興味をもてない私のせいだ。

でも古典は別として、雅臣先輩と過ごした時間は楽しかった。

無愛想な私に根気強く話しかけてくれて、ゲームセンターで見つけた体験型のゲームをやりに行こうとか、駅前に新しいカフェが出来ると無理やりにでも私を連れていく。


それから、読んでいて号泣したという古典を題材にした恋愛小説も頼んでないのに押し付けてくる。


初めは迷惑としか思っていなかったのに、楽しかったこと、美味しいもの、感動したこと、そのどれもを一緒に共有しようとしてくれた彼にいつしか心踊らせてる自分がいた。


いつも、自分が何者なのかがわからなかった。


医者になる夢を持った私。
医者になるために大学に行く私。
医者になってお母さんの病院で働く私。


それらすべてを望むのは私じゃない、両親だ。
私は決められた道を歩く自分を、認めたにすぎない。


私が望んでいることはなに?
私は一体誰なの?


そうやって本当の自分を探して彷徨っていた私の前に、雅臣先輩は現れた。

からっぽだった私の心に温もりを注ぐように、雅臣先輩は彩りや安心感、好奇心といった素敵な感情をくれた。

両親がくれなかった、世界を美しいと思える気持ちを彼はくれたのだ。