『俺は部員が欲しい、君は居場所が欲しい。利害は一致してるし、悪い話じゃないと思うけどな』


まぁ、確かにそうなんだけど……。

ニコニコと笑う雅臣先輩に気圧されつつ、動機が不純すぎて気が引けた。


『それに、俺が卒業するまでに古典の魅力をこれでもかってほど伝えるつもりだから、安心して』


──安心って、何に?

自信満々な彼を前にそんな疑問を抱えながらも、行く場所のない私は頷いた。


私には、これだけはと誰かに譲れるものがない。

そんな私から見て、古典という好きなモノを語る雅臣先輩は輝いて見えた。

居場所が欲しかったのもそうだけど、今考えると……。

古典研究部に入ったのは、自分にはない雅臣先輩の眩しさに惹かれていたからかもしれない。



***



「それにしても心残りだな」

「え?」


1年前だというのに、遠くに感じる雅臣先輩との出会いに思いを馳せていた私は、雅臣先輩の声に我に返る。

雅臣先輩は眉尻を下げて困ったように笑うと、本当に残念そうな顔で天井を見上げていた。


「あと1ヶ月で卒業だっていうのに、清奈に古典を好きになってもらうっていう目標を達成できなかった」


そう、雅臣先輩は1ヶ月後の3月9日に卒業する。
そうすれば私は、この部活でたったひとりの部員となる。

……寂しい、そう思った。

そこで初めて、雅臣先輩と過ごした1年間は私の心の孤独を埋めてくれていたのだと気づく。