「──卒業してもみんな揃って、私に会いに来てって伝えてほしい」


突然、小町先生の伝言を伝えた私に、景臣先輩は「え?」と戸惑うように私の顔を凝視する。


「私にとって、あなたたちは心のよりどころだった。この部活の顧問になれて、私は幸せだった」

「それは……小町先生からか?」


見開かれる景臣先輩の瞳を、私はまっすぐに見つめ返す。

今この人に必要なのは、どれだけ大切に思われているのかを知ってもらう事。

雅臣ではなく藤原景臣という存在に、みんながどれだけ救われたかを伝える事だと思った。


「家族にも見放されて、自分にはなんの価値もないってやさぐれてた俺にとって、景臣先輩が作った古典研究部は唯一の居場所だった」


なるべく、一言一句違えずにみんなの言葉を伝えていく。

託された想いをありのまま、景臣先輩に届けたかったからだ。


「業吉……」


私は誰の言葉なんて、ひと言も言っていない。

なのに、君にはちゃんとわかる。

それって、君にとって古典研究部の仲間が大切な存在だからでしょう?

景臣という人間がみんなを仲間だと思っているから、わかるのではないだろうか。


「絶対になりたい自分になるから、その姿を見せに行くから、安心して行って来い」


業吉先輩の言葉は、景臣先輩の選択を応援するモノだった。

それを聞いた目の前の彼は、その瞳から少しだけ動揺が和らいだように思える。

だから私は、続けて紫ちゃんの想いを語る事にした。