「私にとってあなたたちは、心のよりどころだった。この部活の顧問になれて、私は幸せだったって伝えてちょうだい」

「っ──はい、必ず!」


小町先生の気持ち、絶対に景臣先輩に届けよう。

私は強く頷いて、車が止まっている間に業吉先輩と紫ちゃんと共に車の外へ出る。

そこからロータリー沿いの道に入ると、駅まで全速力で走った。

すると、遠くの方にホームに向かって走ってくる一本の電車が見えた。


「はぁっ、はっ、嘘っ、向こうから電車来てる……!」


あの電車に先輩が乗ってしまったら……。

最悪の事態を想像して真っ青になりながら、私はふたりに叫んだ。

業吉先輩も紫ちゃんも「嘘だろ!」、「そんなっ」と焦ったような声を出す。

走る速度をさらにあげて、ようやく改札にたどり着いた私達はとんでもない事に気づいた。


「バ、バックがない!」


お金も定期も全部カバンの中だ。

部室に荷物を置いてきてしまったので、いまさら取りになんで行けない。

これでは、改札を通れないじゃないか。

絶望的な気持ちで、私はふたりを振り返る。


「しかたねーな、突破するしかねーだろ」


業吉先輩の言葉に、紫ちゃんは「え?」と目を丸くする。

もちろん、私も彼女と同じ顔をしていたに違いない。

そんな私達を見て、業吉先輩は面倒そうに顔を歪めると──。


「だから、強行突破するって事だ!」


そう言って、業吉先輩は改札を突っ切ろうとする。

すると当たり前の話だが、目の前でガシャンッと改札のゲートが閉じてしまった。


「こら君、何をしてるんだ!」


最悪なは重なるもので、窓口で一部始終を見ていた駅員が厳しい顔でこちらにやってくる。

アワアワしていると、業吉先輩が駅員に腕を掴まれてしまう。


「っ、離せっ! クソッ──行け、清奈!」


取り押さえられている業吉先輩が、私に向かって叫ぶ。

その間にも騒ぎを聞きつけた駅員がぞろぞろと出てきており、乗客も何事かと野次馬のようにこちらを見ていた。


「何してんだ、早く!」

「行けって、業吉先輩を置いていけないです!」


ここに置いていくなんて、そんな薄情な事を私が出来ると思っているのだろうか。

頑として譲らない私に、業吉先輩はまた叫んだ。