「……あれ、あれっ、景臣先輩だ!」
その姿を見失わないように目で追いながら、私は駅を指さして叫ぶ。
すると、紫ちゃんと業吉先輩が私の座席の背もたれに手をかけて、「どこ!?」と声を揃える。
私は景臣先輩の姿を指で追うようにずらすと、ふたりも見えたのか、焦るように小町先生を見る。
「どうしましょう、こんな時に限って信号が赤なのよ」
小町先生は困ったように、目の前の信号を見る。私達は大通りで信号待ちしており、すぐそこに駅のロータリーに入る道があるというのに動けない。
というのも、ロータリーに入るための道は車が1台しか通れないので、駅までのこの道は混んでしまう。
この信号が青になったとしても、次に赤になるまでにロータリーへ入れるかは怪しかった。
「くそっ、間に合わなくなるぞ!」
業吉先輩の言葉に、それだけは絶対駄目だと思った私は「お、降りよう!」と言って車の扉に手をかける。
すると小町先生はギョッとした顔でハンドルを握っていない方の手を伸ばし、私の腕を掴む。
「あ、危ないわよ清奈さん!」
「小町先生、ごめんなさい。けど私……景臣先輩に絶対に会いたい!」
振り返って必死に頼み込むと、先生は「清奈さん……」と迷うように私の名前を呼んで、ゆっくり目を閉じる。
その顔は思案顔で、やっぱり駄目だろうかと内心ヒヤヒヤしていると小町先生は覚悟を決めたように目を開ける。
「……わかったわ、気をつけて出るのよ」
「あ……はい! ありがとうございます、小町先生!」
「それから──景臣くんに卒業しても、みんな揃って私に会いに来てって伝えてほしいの」
小町先生はニコリと笑って、私の背中をポンッと押す。
「あっ……」
小町先生は、車を離れられない。
景臣先輩を追いかけたくてもできないから、私に想いを託したのだ。


