「本当は自分に言ってやりたいって、景臣先輩はそう言いました」

「……清奈達に出会って俺はだんだん、雅臣として生きる事が苦しくなっていったんだ」

「え……」


雅臣先輩として生きる事が辛くなった……?

いや、思えば当たり前だ。

だって、他人の人生を生きる苦しさは、私が一番わかってる。

からっぽなんだ、自分の望んだ行き方じゃないから。

そうか、雅臣先輩はずっとその空虚な心を抱いて、みんなのために笑っていたんだ。


「俺を純粋に慕ってきてくれる清奈や業吉、紫に、嘘ついてるのが辛くなった。景臣として、仲間になりたいと願ってしまった……」


それを、大罪のように話す景臣先輩。

彼の本当の名前、それはクラスの人や先生達は知っていたんだろう。

でも、本当に呼んでほしい古典研究部のみんなにだけは、話せなかったんだ。

──私がいたから。

でも、初めから嘘なんてついてほしくなかった。

私だって雅臣先輩としてでなく、景臣先輩として出会いたかった。