今、雅臣は1年遅れで病院から近い東青葉高校に通っている。

俺のひとつ下の学年、2年生として。

しかも新しい学校では彼女もできて、幸せそうだった。

雅臣は忘れた過去より今を生きるために、新しい人生を歩み始めた。

けれど、俺は心からそれを喜べずにいた。

俺の記憶には残っている、清奈という女の子の事が頭から離れない。

あの子がもし、今でも雅臣を好きだったら?

彼女は雅臣がいると信じて、楓高校まで追いかけて来るだろう。

そうしたら、清奈だけが過去に取り残される。

俺はまた、自分が助かった事への罪を知った。

一度は失ったが、再び和歌以上に大切な存在が出来た雅臣ならもう大丈夫だ。

だから、今度は彼女の居場所を守らなくては。

それが彼女への罪滅ぼしだと思った俺は、楓高校で弓道部には入らずに古典研究部を作った。

雅臣が記憶を失う前に守りたかったモノ、清奈を俺が代わりに守ろう。

それが自分に出来る唯一の償いだと信じた。