放課後、筆記用具を鞄にしまっていると、前の席の女の子がこちらを振り返った。


「小泉さんは、何の部活に入るの?」


ホームルームで、全員自己紹介をしたからだろう。
さっそく、私の名前を憶えてくれている。


私はというと、クラスメートの名前を覚えるより和歌を覚えていた方が有意義だったので、自己紹介の時間も和歌集を読んでいた。

そのせいで申し訳ないことに、彼女の名前がわからない。


「小泉さん?」

「あ、えーと、古典研究部だよ」


名前を呼ばなくても不自然にならないように返事をする。

でも彼女は私の口から出た部活を聞いて、明らかに興味を失ったような顔をした。


「あー……そうなんだ、それってなんの部活なの?」


対して知りたくもないくせに、当たり障りのない不毛な会話を続けてくる。

この会話に意味があるとは思えないけれど、強制終了するのは話題を振った手前、失礼だと思ったんだろう。

彼女は話題を絞り出して、話しかけてくれているのだと悟った。