次、雅臣先輩に和歌で想いを伝えられた時に、ちゃんと気づけるようにしたい。

そう思って、必死に和歌と意味を頭に叩き込んでいた。

もう、好きな人がどんな想いを抱いていたのかも知らずに、平然と見送れる自分でいたくなかったのだ。


椅子に座ると、隣に誰かが腰掛ける気配がして、私は視線を向ける。


「…………」


無言でスマホを操作している女の子がいた。

小柄で黒いおかっぱ頭のせいか、小学生に見える……なんて、失礼なことを思った。

一応、挨拶しておいた方がいいよね。

そう思った私は、女の子に向かって「あの……」と声をかける。


「──っ! ……はい」

女の子は一瞬驚いたように目を見開いて、困惑顔を浮かべると、消え入りそうな声で答えた。

話しかけたらまずかった……?

そんな雰囲気を肌で感じて、次の言葉が紡げない。
私も、おそらく彼女も緊張に体を強張らせていた。

それでも、話を終わらせないまま無言になるのもどうかと思い、意を決して自己紹介することにする。