「なぁ、佐倉」



呼ばれて顔を向けると、



「フフッ……まさか、お前に先越されるとはな」



藤堂さんは冗談交じりの口調でフッと鼻で笑い、大量の煙を吐き出した。



俺が入社してからこの一年、お世話になってきた先輩。


仕事のいろはを教えてもらい、自分がここまで成長できたのは彼のおかげと言っても過言ではない。


些細なことでも気がつき、そして気にかけてくれる。


面倒見がよくて仕事も出来る。


そんな藤堂さんは俺の憧れの人。



だからこそ、そんな藤堂さんを差し置き自分が海外赴任することが腑に落ちなかった。


社内では既に俺が海外赴任するということが知れ渡っていて、朝からたくさんの激励の言葉を受け取った。


……だけど、俺は素直にその言葉を受け取れなかったんだ。



凪咲のこと。



そしてもう一つ。



自分が選ばれたことに疑問を感じたから……。


実力が認められて嬉しい反面、戸惑いを隠しきれなかった。


手放しで喜べなかった。



何で俺なんだろう。



藤堂さんの実力は誰もが認めているし、経験も実績も俺より積んでいる。


そんな藤堂さんに俺はどういう顔を見せていいものか分からず、正面をひたすら眺めていた。