俺が呼び止めると不思議そうな顔をして振り向く。



「ほら、行くぞ」



軽く頭を叩いて髪をクシャッとし、俺は再び彼女のマンションへと歩き始めた。



「えっ? あ、佐倉先輩、家反対方向ですよ?」



どうやら呼吸の乱れも治まった彼女は驚きの声を発する。


今度は俺が振り向いて、不思議そうにキョトンと立ち尽くす彼女を見た。


やっぱり分かっていないし。

はぁ……。


世話のかかる娘だ。



「ここで一人で帰したら送った意味なくなるだろ? ほら、早く行くぞ」



自然と笑みが零れる。


ったく……。

どうしようもなく面倒な彼女が、可愛く見えるなんて不思議だ。



「置いていくぞ?」


「……へっ? あ、佐倉先輩! 私は一人で帰れるから本当に大丈夫です! 先輩も早く帰って下さ……キャッ!!」


「うわ……っと。大丈夫?」



慌てて俺に駆け寄ってきた彼女は、何もないところでつまずき、勢い良く前のめりになった。


間一髪。

支えた彼女は小柄で柔らかくて、ほのかに甘い香りがして……。


不覚にもドキッとしてしまった。



「はい、すみませんすみませんすみませんっ」



そんな風に思ったのも束の間。


何度も謝る彼女に笑いが出た。