すやすやと昼寝するリョウを見守りながら、梨花は呆れた顔で俺に言った。

「要するに、小学生男子の典型パターンじゃない」
「うん?」
「好きな女の子が気になるくせに、素直になれなくて、いらついたり虐めたりしちゃうってやつよ。あんた、モテるわりに恋愛初心者だもんね」
梨花はくっくっと笑いをこらえながら、俺の肩をバシバシと叩いた。
「まぁ、よかったじゃないの。淡い恋がちゃんと成就してさ」
「どうも。そっちは、これでよかったの?」

梨花は結局、離婚を選ばなかった。親子三人でもう一度やり直すことに決めたそうだ。問題の姑も一応、納得はしてくれたという。

「けど、ああいうババアは喉元過ぎればってやつで、絶対、この先も面倒なこと言い出すと思うけど」
その都度、今回みたいな騒動を巻き起こされるのはごめんだ。
「次になにか言ってきたら、そのときは母親と絶縁して私を選んでくれるって」
梨花は彼女らしくもない夢見がちな瞳で、うっとりとそう言った。
かと思えば、急に真顔になってため息をついた。
「なんてね。もうそんな甘い言葉を信じられるほど若くもないから、誓約書を書かせてやったわよ。絶縁しない場合には慰謝料・養育費20%増しで即離婚って」
彼女らしいたくましさに俺は苦笑しなながら、席を立った。
「その誓約書が役に立つ日がこないといいけどな。じゃ、俺はそろそろ行くわ」

梨花は寝ているリョウを抱っこしながら、玄関まで見送りにきてくれた。
「じゃあね。華ちゃんによろしく。この次は私たちが新居に遊びに行くからね」
「うん。そっちも、旦那とうまくやれよ」
「はいはい。あっ」
ドアを開けて帰ろうとする俺を梨花が呼び止めた。
「さっきの話だけどさ、自然体でいるように見えても華ちゃんだって
我慢してる部分あるのかもよ?そういうの受け止めてあげるのは、旦那の役目よ」
姉ぶった口調でそんなことを言って、梨花はウインクをしてみせた。