「光一さんでも、自信なくすことなんて、あるの?」
私は目を丸くして、彼を見上げた。私から見た彼は常に自信に
満ち溢れていて、それが揺らぐことなんてなさそうに思えるから。
「ない。今までは全然なかった。けど、華に関しては、なんかダメだ。
ペース乱されるし、感情むきだしになるし……しかも、不思議なことにそれが
嫌じゃないんだよ」
光一さんは目を細めて、慈しむように私を見た。胸がきゅっと締め付けられるよう
な甘い痛みが私を襲う。

「あぁ。でも松島には礼をしないと。華が無実なの教えてくれたし、嫌がらせの
犯人が俺じゃなくて華のストーカーじゃないかっていうのもあいつの推理なんだ」
「そうだったの?ん、じゃあ松島さんに説明してもらうまではやっぱり疑ってた
ってこと?」
私は口を尖らせるけど、光一さんは「どうかな」と笑ってはぐらかした。
「でも、松島さんは私たちの恩人だね。今度、うんとおいしいお酒でもご馳走しなきゃね」
「……そうだけど、華は留守番な」
「やきもち焼き!」
「そうだよ。悪い?」

(あぁ、やっぱり、好きだ。ホワイト光一さんじゃなくて、
目の前にいる、ちょっと不器用なこの人が)

「松島さんは素敵な人だし、奥さんになる人はきっと幸せだと思う。
だけど……私は光一さんと一緒にいたい。光一さんの奥さんでいさせて欲しい」
上目遣いに光一さんの顔をのぞきこんで、彼の頬が少しだけ赤く染まっている
のを確認する。
「さっきさ、自分は脇役が似合うって言ってたけど、もし俺がなにかの物語の主役
だったとしたら、ヒロインは間違いなく華だよ。なにせ、俺の完璧だったはずの結婚観をひっくり返したんだから」
「ほんとに?」
光「うん。一緒に料理とか、休日にデートとか、ささいなすれちがいでケンカとか、
昔は死ぬほど面倒くさいと思ってたのに、今は華とならありだなって思ってる。そういう風に年を重ねていくのも悪くないなって」
私は光一さんの背に腕を回し、彼をぎゅっと抱きしめた。
「悪くないどころか……それって、最高!」