――ダンッ!
俺は、壁を殴った。
(……冗談じゃない)
妹と結婚することも、心春をバカにしたことも、何もかも……この人のことを許せない。
心からの殺意を覚えるくらいに、俺は、この男を憎んでいる。
母さんと俺から父さんを奪い、沙耶の心に大きな傷をつけた男……
俺を見て、目を細めた祖父。
「……嫌、なのかい?」
「当たり前だ。冗談じゃない」
「そうだよ。冗談じゃない。私は本気だ」
「なお、質が悪いな」
俺の反抗的な目を見、彼は再び笑うと、机の上にあった書類を手に取り、
「……少し、調べさせてもらったよ」
残忍に、顔を歪ませた。
「その心春という女を、お前は大層、大事にしているらしいな?けど、その娘をお前は無理矢理、手にいれたというではないか」
心が、痛む。
その通りだ。
俺は、春を傷つけた。


