「貴女は、後悔しちゃ駄目よ」
「え……?」
「私は、後悔したわ。ここに来て……終わりなきなかで、人を裁き、送り出す。それだけのことが、こんなにも辛いのよ。だから、貴女は後悔しちゃ駄目よ」
「ッ、」
鶴は、やり直せないから。
裏切って、嘘ついて、失恋して、絶望して。
苦しみのなかで、命を絶った人。
「貴女を愛してくれる人たちを、貴女は、裏切ってはいけないわ。折角、生きられるんだから。命を、持っているんだから」
私の頭を撫でる手は、こんなにもあったかいのに。
どうして、こんなにも理不尽なのだろうか。
「泣かないでよ、お願いだから」
浮かんだ涙を、荒く拭う。
そして、鶴の手を掴んだ。
「今度生まれ変わったら、鶴は幸せになるわ!私が保証する!」
「え……?」
「絶対に、幸せになるわ!私が、私、……っ……」
何も、言えない。
彼女の来世なんて、見えないのに。
幸せになってほしい。
それだけで、私はこの言葉を口にする。
「大丈夫、だから……鶴は、優しいもの……」
自分の額を、鶴の手に押し当て、私はうつむいた。
「……人のこと、蹴ったくせに」
涙が、下に落ちる。
でも、落ちた先は、地面なんかじゃなくて。
真っ白な、何もない白紙の世界。
上から聞こえた、そんな声は震えていて。
「私、罪を償っているんだって、思っていたわ。ここで、ずっと……本当に、終わりなきなかで、人を送り出すんだと思ってた。永遠に、そう、永遠に。……でも、違うのね」
握っていた手は離され、代わりに、私の頬に鶴の手が触れた。
「貴女のお陰で、見つけられた気がするわ」
私と同じように、泣く鶴。
「私の罪は、人を裏切ったことでも、嘘をついたことでも、無いんだわ……」
私達は、どうして失わなければわからないんだろう。
もう少し、もう少し、早くに判っていれば失わずにすむのに。
どうして、いつも、事後になるのだろう。
「私の罪は、私を愛してくれている人を、哀しませたことなのね……」
こんなにも、暖かいんだよ?
触れられるんだよ?
でも、私と鶴の間には、見えない大きな壁がある。


