「……それじゃあ、京子に相手にされる前におじいさんになってますね」


「そうかもねー」


チャラい男のように見えて、そうではないこの人は。


「まあ、俺たちのことは置いといて」


鋭く、危険な男である。


「真琴ちゃん、人気者だね~」


そして、話題をすり替えるのだ。

すんごく、自然に。


「……どうも」


「東京にいたときもだったけど……なんか、必ず、どこかで真琴ちゃん、見かけてた」


「ポスターとかのこと?」


「そうそう」


相手の懐に潜り込み、情報を引き出し、そして、潰す。


それが、彼のやり方であることは、桐生の人間としてみていて、気がついたことだった。


「……私を、潰す気?」


オブラートに包むのは苦手だから、直球に尋ねた。


すると、クスリと、彼は笑って。


「潰すわけないじゃん。国民的モデル、女優を。京子の幼馴染みで、親友だろ?俺は、あいつが笑っていれば良いんだから」


……あ、なんか、最近、見た気がする。


こんな人間。


どこだっけ……二重人格で、人を人と思わない非道さを持っていた奴……薫はもちろんだが、えっと……


「真琴?」


横を見ると、哉が心配そうに私の顔を覗き込んだ。


「ごめんなさい、何でもないの。ただ、考え事をしていただけ」


私の恋人であり、カメラマンでもある哉。


半ば強引に恋人になって貰った感じだったけど、今や、深く愛して、側にいてくれている。


そんなお人好しな人間も、中々に狡猾で。


悠仁の場合は、それ以上。


そして、そんな悠仁に似ている人物は、京子の伯父の陽向さんである。


天使のような顔をしておきながら、中身は辛辣で、酷い。


悠仁は、それに似ているのだ。


「……私の幼馴染み、泣かせないでよね」


睨み付けると、彼は困ったように肩を落として。


「でも……」


口を開きかけたとき、


「悠仁!真琴でもええ!直樹さんに電話をしてくれ!」


障子が思いきり、開いた。


汗を流し、慌てる姿は何かあったことを示す。


「……なにか、あった?」


当主、関係だろうか。


そう訊ねれば、京子は首を振って。


「沙耶が……っ」


悲痛に顔を歪ませ、そう叫んだ。