昔から、大切なものはなかった。


お母さんに振り向いてほしい。


頭を撫でてほしい。


そんな思いばかりで。


自分が、本当にやりたかったことなんて覚えていない。


でも、今は。


守りたい、女がいる。


愛している、女がいる。


だから。


俺は、頑張れる。



「ん……」


こんなつもりじゃなかった。


前世で愛しても、今世で愛する意味はなかったから。


なのに。


(溺れてしまった……)


愛がどれだけ厄介なものかなんて、理解していたのに。


愛してしまったら、泥沼に沈み込んでいくような感覚に囚われて、逃げられなくなって、危険だとわかっていたのに。


沙耶への想いは、溢れ返る。


見つけてしまった。


手で、触れてしまった。


自分にとって、不可欠な女に。


無視していれば、良かったのに。


沙耶の頬に触れ、髪に触れ、頭を撫でると、


「……んんっ、……へへ……」


彼女は笑う。


くすぐったそうに、身を捩らせて。