傷つくことには、慣れている。


だから、私は大丈夫。


私は、泣いてなんか、いない。


相馬に抱き締められそうになり、私は、彼を拒絶した。


相馬の胸を押し返し、笑顔を作る。


“大丈夫”って。


「沙耶」


なのに。


「沙耶」


笑った、のに。


「沙耶」


彼は、騙されてくれなくて。


当たり前かもしれない。


付き合いはじめて、もうすぐ一年。


彼には、いろいろな私を見せた。


仕舞うと決めた感情を認めてから、自然に彼に甘えてしまう。


両親の前でも、兄貴の前でも、親友、幼馴染みの前でもできなかったことが、この人が前に来ると、出来てしまう。


「沙耶」


何度も、何度も、私の名前を呼んでくれる。


ここにいて良いんだと、言うように。


前と同じように、私を引き留める。