「……よく、それを大人しく受け入れたね……」
「そう?ま、できちゃったもんは、しゃーねーしって感じだったけど。勇兄ちゃん、なんだかんだ言って、麻衣ちゃんのことを大事にしているし、麻衣ちゃんの側にずっと付き添っているみたいだし、大体、医者って……」
勇兄ちゃんが言うには、
『麻衣子のこと、もう少し、独り占めしたかったのに……』
と、いうことだ。
結婚に踏み切れてなかった人間が、何を言うと思ったが。
「え?」
「え?」
柚香は目をぱちくりさせ、身を乗り出す。
「医者?」
「あれ?これも、言ってないっけ?勇兄ちゃんは、お医者さんだよ?」
「嘘!?」
「ほんと、ほんと。あの見た目で、暴走族の元トップでありながら、家の跡継いでる」
「家!?家って……」
「兄ちゃんは父さんにとって、あくまで融子だからね。だから、名字が“松山”でしょう?父さんの幼馴染みが亡くなった後、その息子だった勇兄ちゃんを、父さんが引き取ったの」
松山久貴さん。
昔から、父さんの我が儘に付き合い、父さんに財布がわりにもされていた、父さんのことを一番に理解している人。
まだ、私が生まれる前に、事故死した。
最期まで、先立った妻を想っていた人。
「……で、その、勇兄ちゃんのお父さんさ、金持ちさんだったんだ。医者家系で、両親に見合いさせられて……その見合いで、出逢った人が勇兄ちゃんのお母さん」
母さんの話だと、本当に美しい人だったと聞く。
勇兄ちゃんのお母さんは、久貴さんと深く、愛し合っていたけれど……身体が弱く、亡くなってしまった。
再婚を進めても、断固として拒み、勇兄ちゃんを深く、大事にしていた。
そんな久貴さんは、裏の仕事で動いている途中に……
恐らく、久貴さんを消したのは、あの人。
「そんなお父さんのようにって、勇兄ちゃんはお医者さんになったんだよ」
「……あの人、単純にチャラい人かと」
「そう思うのも、仕方ないよねー」
新聞の一面を飾り、騒がれた久貴さんの死。
あんな、死に方をしたのだから、当たり前だが。


