夕蘭ではなく、”黒橋沙耶“を。 「……フフっ、フフフ、馬鹿だなぁ……」 微かに笑う、声がした。 泣き笑いのそれが、沙耶の声で安心した。 「……ほんと、馬鹿……っ」 泣くのを我慢する声が、 震える手が、 いとおしくて。 「泣け。俺のことは、気にしなくていいから」 抱き締めていて、やりたい。 抱き締めて、抱き締めて。 離さないで、いられたのなら。