耳を塞ぎたくなったが、


彼に演技がバレたことよりも

カケルが私の名前を呼んでくれなかったことに

少し、腹が立った。



なぜか今更

病院の独特なにおいで鼻が満たされていることに気づいた。


それは、カケルに嘘が発覚しても、


私はまだ、彼の中で綺麗な存在であるだろう


自信と余裕からだ。



「どうして記憶喪失のふりをしたんだ?

それで、俺が楽になるとでも思ったのか?」


頭は落ち着き払っていたが、

少し時間が経ってからこたえた。

その方が余情があって綺麗な私を演出できると思ったから。


「思ったよ。」

私は穏やかな声でそう言い、

カケルの三日月の形をした目をとらえた。