「よろしくー、川本 郁さん」


初対面で、苦手だなぁと感じる人がたまにいる。
そして、その印象はたいてい当たる。

白石諒は、まさにそんな男だった。

穴のあくほど凝視しても、アラの一つも見つけられそうもないその容貌。
いかにもしゃれた細身のスーツを、気負いもなく着こなして。

今まで「負ける」という言葉と無縁に生きてきたんだろう。
自然と身にまとう尊大さ、にじむプライド、語尾が伸びぎみになるしゃべり方。
すべてが苦手だった。


「川本です。よろしくお願いします」
ぺこりと頭をさげる。

しかしながら、この一つ年下の男はマネージャー職であり、今日から自分の上司なのだ。

新規事業開発部第二課、が郁の新しい配属先だった。

新規、と冠していながらやたらと平均年齢が高く、どこか淀んだ空気がただよう部署。
そんな中にあって、白石諒の姿は掃き溜めに鶴のごとく映る。