「今日も来るかな?」

「多分」

 それがあの日からの二人の会話になっていた。

 今日で5日目だ。

 朝からの小雨で客足はいつもより少なかった。

 観覧車に乗る人もいつもの半分ぐらいだ。

 そして、いつもの時間。

 彼女の姿が薄闇から現れた。

 雨は夜になって上がっていた。

 今日は、彼女の服はTシャツとジーパンというスタイルだった。

 でも、浮かべている表情は変わらない。

「どうぞ」

「ありがとう」

 初めて、彼女の声を聞いた。 

 その余韻に浸っている間に、ゴンドラは空を目指して上がっていく。

 聞き覚えのない声。

 でも、儚げな声が頭の中でエコーが掛かったみたいに繰り返される。


「おい」

「え?」

 肩を揺すられて我に返った。

 すでに彼女の乗ったゴンドラは戻ってきていた。

 そこから誰かが下りてきた気配はない。