陽はいつの間にか、その場所で眠ってしまっていた。起きたときには、もう夕暮れで、そろそろ帰るかと名残り惜しげにその場を離れた。

「あ、そうだっ、買い出しに行かないと!」

1度家に帰るか、このまま買い出しに行くか悩んだが、億劫さが勝利し、このまま買い出しに行くことに決め、自宅とは反対の方向に歩き始めた。

橋を渡ろうとしたとき、子どもの声が聞こえたような気がして、陽は足を止め、あたりを見回した。

「・・おかしいなぁ、たしかに子どもの声が聞こえたと思ったんだけど。気のせいかなぁ??」

もしかして幽霊だったりして、と急ぎ足で橋を渡ろうと再び歩き始めた、そのとき、

「・・けて、・・たすけてっ、たす、けて!!」

と、今度ははっきりとその声が聞こえた。
陽はきょろきょろとあたりを見回し、声の主を探した。
橋から身を乗り出し、橋の下をのぞくと、子どもが溺れかけている!

「助けないとっっ!!」

陽は急いで川岸までおりて行き、何の躊躇いもなく子どものもとへ泳いでいく。川の真ん中あたりに来ると大人でも足が届くか届かないかぐらいの深さだ。
それでも、陽は迷うことなく男の子に向かって手をのばす

「大丈夫っ、、助けにきたよっ!ほらっ、もう少しで、、っっ!」

あと数センチ、あと数ミリ、、

(・・・っっ、届け〜っっ!!)

ーーーガバッ

(っっっ、届いた!!!!)

「大丈夫だよっ、今お姉さんが助けてあげるからね!!」

男の子の身体を引き寄せると、陽は川岸に向かって必死に泳いだ。
しかし、片手に7歳くらいの男の子を抱えて泳ぐのは、女の陽にとっては容易いことではない。必死に足を動かし、腕を動かして水をかきわけた。

(っ、もう少しっ、あと少しっ、)

陽は心の中でそう言い聞かせていた

「っ、・・・痛っっっ、」

必死に動かしていた足が水底にある岩にあたり、足首を切ってしまったようだ。

「おねぇちゃっ、、ゲホゲホっ、おねぇちゃっっ、、!、」

男の子が不安そうな顔で陽を見上げる。