私の朝は早い。まず私は目覚ましが鳴る前に起きる。そして枕の下に隠していたゲームを手探りで探す。イヤホンをつけ、音漏れがないようにした後、耳にイヤホンをはめる。
『……猫。僕はどうやら…君のことが好きなようだ。結婚を前提に付き合ってほしい。』
ゲーム画面上には眼鏡姿のイケメンが赤い顔で照れながら告白をしてきた。

(来た!きたきたきたー!!)

私はにやけそうな顔を枕に埋めて叫びそうになるのを必死に我慢する。

(無論、YESだ!)

私はボタンを押そうとする。

「猫?起きてる?」
「ぬあっ!?」
「あ、どうやら起きてるっぽいね。おかあさんが朝ごはんだって。…どうしたの?」
私はバクバクしている心臓を抑えながら布団に隠れていた。
「なんでもない!わかったから早く閉めて!あと、返事があってもドアを開けないで!」
「ああ。ごめんね。ベットから落ちたのかと思った。じゃあ、下で待ってるね。」
そういうと彼は下に降りて行く。

(焦った…)

私は布団から出てパジャマにしているシャツを脱いだ。ゲーム機に目を向ける。

『…そうか。…ごめんな。でも、これからも変わらずに仲良くしてほしい。』

(!?なぜ!?)

私の画面はまさかのNOの選択肢を選んだものだった。

(あ!白が来たからだ!もしかしてあの時間違えて…その上自動にしてたから…)

私はセーブをしていない。

(今すぐに選択肢画面に戻ればまだ間に合うかもしれない。今日まで頑張ってきたんだ…!!)

私は手を伸ばす。

『…ごめんね。西野くん…。』

ーー失恋エンドーー

画面には無情にもエンドロールが流れていた。

「………。い、いやーーー!!」

私は叫んでいた。



「もう、どうしたの?なんでそんなにむくれてるの?」
母は私の顔をみながらフライパン返しをブンブンと振り回す。
「…別に。なんでもない。」
「どうしたの?ゴキブリでも出た?それなら早く猫の部屋に…!」
「なんだって!猫の部屋にゴキブリ!?パパも行こうっ!」
「いないし、入らないで!」
私は二人の男を叱りつけた。二人はしゅんとしている。
「あらあら。お父さんを泣かせたら駄目よ?猫?」
お母さんは笑っていた。お母さんはお父さんに抱きしめられる。
「おや。今日も可愛いね。市子。」
「あらあら。今抱いていると危ないわよ?」
お母さんの片手にはフライパンがあった。私はお父さんを睨む。
「そういえば。ここのところ変態が出るようになったらしいから。器用つけるんだよ、猫。」
「…お父さんに言われたくはない。」
私はさらにお父さんを睨む。
「…反抗期だよ。白君…。」
「そうですね。思春期ですね。」
私はうざいから放っておくことにした。お父さんはコーヒーを飲み始めた。一見、仕事ができる完璧な人に見えるが、私のお父さんー東雲要は元・ホストだったりする。今は銀行で働いている。私のお母さんー東雲市子は教育アドバイザーでテレビでも活躍しているほど人気がある。(当の私は勉強は不得手だが。)家ではお父さんといちゃつく困った人、ー達だ。

(その上ーー。お父さんは変態だ。よく捕まらなかったものだ。)

お父さんとお母さんの年齢差は6歳。お父さんが20歳、お母さんが14歳の頃に出会ったらしい。なんでも当時超No. 1ホストだったお父さんが一目惚れし、しつこく付きまとったらしい。それで長い間お母さんをストー…見つめ続け、なんだかんだあったらしいが、お母さんが20歳になって結婚。その時にホストの仕事をやめたらしい。

(お母さんは何も言わないがきっと、色々…色々と!あったのだろう。)

私はため息をこらえながら紅茶を飲む。

「どうしたの?猫。元気ないね。何か困ったことがあったの?」
白は私の顔を覗いてくる。彼の綺麗な顔は心配しているのだろう。ありありと伝わってくる。
「なんでもない。」
私は彼から目を背ける。彼は私の幼なじみ、八王子白。細く長い手足に透き通った声、整った顔立ち。悪態をつけれぬ程に成績優秀、運動をするときも薔薇でも背負ってるのではないかというほどに様になっている。女子からの人気も高い。

(だが、私のタイプではない。私のタイプは真面目で好青年。できればあのゲームのような人物だ。)

つまり、彼のことは論外だったりする。故にこんなイケメンに対しても微動だにせずに接することが出来る。イケメンは例外なく好きだけど。
「そういえば今日は小テストだね。勉強した?」
「うっ。」

(しまった。ゲームに夢中でしていない…!!)

「そう。じゃあ、後から問題の復習をしようか。」
「えっ!本当に!?」
私は彼の顔を見る。彼はにっこりわらっている。

(よかった!白のプリントがあれば大丈夫だ!)

「あら。今日は教育委員会に用があるの。先にお暇するわね。」
お母さんはそういうとエプロンをとって部屋を出て行こうとする。
「おやおや。では送って行こう。」
「気持ちだけ受け取っとくわ。それより、あなたもそろそろいかないと遅刻するわよ?あまり上司困らしちゃ駄目よ?」
「別に平気さ。それで…」
二人は話しながらリビングを出て行く。私は白と洗い物と洗濯物を手分けをしてした後に学校に行くことにした。白は私の鞄を持とうとしたが私は断る。彼は何かと世話をやきたがるのだ。悲しそうな顔をしたがすぐに白はきりかえてお手製のプリントを渡してくる。

(相変わらず、わかりやすい…。)

彼のプリントはとてもわかりやすくできている。私は一通り見た後彼と一緒に問題をだしあった。

「科学技術にともないシステム合理性が生活世界を支配する事態がもたらされたと考えたのは誰か。」
「ハーバーマスだね。対話的理性にもとづいての合意の重要性を述べた。」
「正解。」
「じゃあ、次は僕だね。公正としての正義を述べた…。」
私と彼は問題を互いに出し続ける。お互いに間違えることなく答えた。

「あっと。もう着いたみたいだね。」
「ん、ありがとうプリント。」
「いいよ。あげる。猫のために作ったんだから。」
彼は本当に優しくて良い幼なじみだ。

彼は先生を見かけて挨拶をする。私もそれに続く。
「おはようございます。」
「おはよう。東雲さん。八王子君。」

先生は笑いながら返してくれる。私と白夜は門をくぐる。私達が通う学校、私立星野学園は中等部高等部が存在する。生徒数もまあまあいる。私は中等部から通っている。白は途中から転校してきた。そして、彼の転校はうちにとってはかなりのニュースになった。その挙句…。
「みて!白王子よ!」
「ああ!いつみてもかっこいい!」
白王子ー。それは隣にいる彼のあだ名だ。まあ、名前からとったのだろう。違和感がない。彼のファンがつけたのだろう。さすがの私でも乙女ゲームに出てきそうなあだ名に最初は引いたものだ。ふと校舎から視線を感じ私は校舎を見上げた。そこには女生徒が群がっていた。さすがだ。朝から熱烈なお迎えなことで。

「あ、そういえば。」
「どうしたの?」
「今日は図書委員の仕事があるから、先にかえって欲しいんだけど…。」
「いや、待つよ。図書室で本を読みたいし。」
私は前彼が図書室を訪れたことを思い出す。女生徒で図書室はひしめき合い、ドアは半壊した。あの時は先生によってその場は静まった。が、当の先生はギックリ腰を起こしてしまうことになった。
「…図書室がうるさくなりそうだからかえって。」
もう二度とあのような事態はごめんだ。被害者が可哀想だ。
「え、でも…。」
「遅くなるようなら電話をするから。」
彼は渋々了承した。彼は資料室に用があるらしく下駄箱でわかれた。
「さて、と。」
私は軽い気持ちで歩き出す。

(今日は図書委員の日だ!)

私にとってかけがえのない日である。一週間に一回の楽しみなのだ。

何故ならば…。
「あ、東雲さん。おはよう。」
目の前からメガネをかけた男生徒がやってくる。彼は本をたくさん持っていた。
「おはよう。山口くん!」
私は彼に駆け寄る。すると重そうな本をたくさん持っていることに気がついて持ってあげることにする。
「ありがとう。東雲さんは優しいね。」
彼は私に笑いかけてくれた。

(か、可愛い…!!)

彼は山口晃一朗。同じクラスで同じ図書委員だ。彼とは図書委員になって話しはじめたのだが本にとても詳しい。それに私の仕事まで手伝ってくれる。そんな彼に私はいつの間にか惹かれていた。私は彼の横顔を見る。整った顔立ちとは言いきれないが眼鏡。真面目そうな雰囲気。優しい。

(まさにイケメンであればリアル西野君‼︎)

私は彼と職員室の前に着くと彼は私から本をとる。

「ありがとうね。助かったよ。」
「大したことじゃないし。これぐらいお安い御用よ。」
「でも、助かったことは事実だし。礼はいわなくちゃ。」

(なんて律儀さ!しかも癒される笑顔!!)

彼は職員室に入ろうとしたところで私の方へ振り向く。
「あ、待っててくれる?一緒に教室へ行こう。」
「う、うん!」
私は彼を待つことにした。

(もしかして、脈ありなのでは?)

私はこのような場面が乙女ゲームにあったことを思い出す。もしかしたらもしかするかもしれない。彼は職員室から出てきて私の元に歩み寄ってくる。

(ーー告白。してみるべきなのか。)

私は淡い期待を抱きながら彼と教室に向かった。