急に降りだした雨に、私たちは神社の境内で雨宿りさせてもらった。遠くの空は晴れ渡っているので、雲が過ぎてくれることを祈るばかりだ。それでも何故かそわそわ落ちつかないのは、手に乗せたままの狐の赤ちゃんだ。手に乗せてみて分かる。ちゃんと温かいし荒くきつそうな息を吐いている。生きている。少なくても私には生きて見えているんだ。
「その石、持って帰る?」
「うん。形が可愛いから持って帰る」
「何それ」
透真君はちょっと馬鹿にして笑った後、帽子を脱いだ。
「この中に入れとけ」
「へ?」
「そんなに大事そうに持ってるなら、入れとけ」
その気遣いは、驚いたけど正直嬉しかった。帽子が汚れてはいけないという名目でハンカチを入れ、その上に震える狐を乗せて温めてあげることが出来たから。
「帽子、洗って返すね」
「いや、店に着いたらそのまま返してくれたらいいよ」
ちょっとだけぶっきらぼうな透真くんの言葉は、『透真くん』ではなく『三年生の透真先輩』という男の子みたいな言葉だった。くすぐったい。なんだか急に隣に居るのが恥ずかしく、居心地が悪いと思っていたら、鳥居の前で二人の男の子が歩いてくるのが見えた。
「貴様、着いてくるな」
「嫌っすね。俺は、鵺くんがお嬢に近づかないか監視してるっす」
傘をさしレインコート着用の鳩と、何故が学ランに真っ黒なレインコート姿の鵺が言い争いながら鳥居を潜る。良かった。鳥居をくぐれたということは、少なくとも鵺は妖怪ではないらしい。物の怪の名前だけど。でも真っ黒なレインコートが、なんだか悪の組織みたいなマントに見えてイケメンが台無しになるぐらい格好悪い。
「比奈。もしかしてあいつさあ」
「うん。ナイフ持ってた危ない転校生です」
「ふうん」
透真君に悪ガキの心が宿る。止めてあった自転車に跨るので、止めようか止めないか悩んだけど、私の平凡な日常をキープするために止めないことにした。
「鳩、こっちに来て」
「へ、あ、あれー、お嬢! 傘持ってきましたよー」
大型犬の様にぶんぶんと手を振って駆け寄ってくる鳩と、その横を自転車ですり抜けていく透真君。そして雨の中、黒魔術でも始めてしまいそうな黒のレインコートの鵺。
「はっ」
自転車に気付いた鵺が、境内に向かってダッシュするころ、鳩は私と透真くんを交互に見ていた。
「お嬢、めっちゃ好青年な男の子っすね、彼氏」
「彼氏じゃないよ。幼馴染の透真君」
「そうなんすか。なんかよく晴れた空の下の洗濯物みたいな匂いっすね」
こんな雨の中、晴れた空の匂いがするなんて、鳩は凄い。鳩の鼻では柔軟剤の匂いなのだろうか、太陽の匂いなのだろうか。
「ところで、あの二人は止めないっすか」
「どうしよう。透真君が危険になったら止める」
「その石、持って帰る?」
「うん。形が可愛いから持って帰る」
「何それ」
透真君はちょっと馬鹿にして笑った後、帽子を脱いだ。
「この中に入れとけ」
「へ?」
「そんなに大事そうに持ってるなら、入れとけ」
その気遣いは、驚いたけど正直嬉しかった。帽子が汚れてはいけないという名目でハンカチを入れ、その上に震える狐を乗せて温めてあげることが出来たから。
「帽子、洗って返すね」
「いや、店に着いたらそのまま返してくれたらいいよ」
ちょっとだけぶっきらぼうな透真くんの言葉は、『透真くん』ではなく『三年生の透真先輩』という男の子みたいな言葉だった。くすぐったい。なんだか急に隣に居るのが恥ずかしく、居心地が悪いと思っていたら、鳥居の前で二人の男の子が歩いてくるのが見えた。
「貴様、着いてくるな」
「嫌っすね。俺は、鵺くんがお嬢に近づかないか監視してるっす」
傘をさしレインコート着用の鳩と、何故が学ランに真っ黒なレインコート姿の鵺が言い争いながら鳥居を潜る。良かった。鳥居をくぐれたということは、少なくとも鵺は妖怪ではないらしい。物の怪の名前だけど。でも真っ黒なレインコートが、なんだか悪の組織みたいなマントに見えてイケメンが台無しになるぐらい格好悪い。
「比奈。もしかしてあいつさあ」
「うん。ナイフ持ってた危ない転校生です」
「ふうん」
透真君に悪ガキの心が宿る。止めてあった自転車に跨るので、止めようか止めないか悩んだけど、私の平凡な日常をキープするために止めないことにした。
「鳩、こっちに来て」
「へ、あ、あれー、お嬢! 傘持ってきましたよー」
大型犬の様にぶんぶんと手を振って駆け寄ってくる鳩と、その横を自転車ですり抜けていく透真君。そして雨の中、黒魔術でも始めてしまいそうな黒のレインコートの鵺。
「はっ」
自転車に気付いた鵺が、境内に向かってダッシュするころ、鳩は私と透真くんを交互に見ていた。
「お嬢、めっちゃ好青年な男の子っすね、彼氏」
「彼氏じゃないよ。幼馴染の透真君」
「そうなんすか。なんかよく晴れた空の下の洗濯物みたいな匂いっすね」
こんな雨の中、晴れた空の匂いがするなんて、鳩は凄い。鳩の鼻では柔軟剤の匂いなのだろうか、太陽の匂いなのだろうか。
「ところで、あの二人は止めないっすか」
「どうしよう。透真君が危険になったら止める」



