田舎で妖怪と戦う女の子は平凡な生活を夢見て、世界征服をしたい中二病少年鵺(ぬえ)は、つまらない日常の破壊を夢見て、人生とは何かと真理と戦う元ホストの鳩は、真実の香を探して。


 拳銃と妖刀と香りが渦巻く朝霧が深く山を覆い隠す中、比奈(ひな)はブロック塀の上に音も立てずに登る。天使の羽のように、長く艶やかな髪が舞い上がる。


 小さく愛らしい身長に、真っ赤な唇と頬は本当に天使と例えられそうだ。塀の上に堂々と立ち、妖刀『秘め百合』で宙を切ると、永遠と続く平地の向こうの建物を見上げた。


「っち。遅刻どころの話じゃないじゃん」

 観光バスが次々に少女の隣を通過していく。塀の上の美少女に写メを撮る人さえいるのは、比奈自体が観光名物になっているからだ。比奈もまんざらではない。だが時刻は九時過ぎ。完全に学校へ登校するには、遅刻し過ぎた。頭を掻きながら、塀の上を走り抜けると、バスからは歓声が上がった。いつもの、ありふれた日常の一こまだった。