美紀とは2回、外で会った。
 最初は部活の練習をみ終わったあと、学校で待ち合わせをして、そのままショッピングモールを歩いた。途中で雪が降ってきたので、ファーストフード店に入って談笑した。
 2回目は部活の休みの日を利用して、水族館にいった。
「水族館って久しぶりかも。ねぇ、絶対イルカショー見ようね」
「イルカのショーは13時だから、まだ時間に余裕あるぞ。先に他のとこいこうぜ」
「じゃさじゃさ、ペンギンいこう、ペンギン!」
「順番どおりでいいだろ、わかんなくなるし」
 ふたりはパンフレットを広げながら、あーでもないこーでもないと自分の主張を言い合った。美紀と付き合うようになって感じたことは、美紀も意外と活発で自分を持っているということだった。
 千秋と重ねてしまうときがあるほど、美紀と千秋の共通点は多かった。
 運動部に所属していただけあって体育会系のところもあったし、3人兄弟の一番上でしっかりもしていた。
 何より雰囲気だ。ふたりの雰囲気は、口では説明できないほど酷似していた。
 同じ時間を共有したのは僅かなのに、違和感なく遠矢の隣に納まったのは、その雰囲気が千秋に近かったせいだろう。
 話をしていても、千秋と話をしているようで、胸が穏やかになった。
「お、見ろよ、あれ。あの魚。青くてキレイじゃね?」
「あ、本当だぁー。熱帯魚だね」
「こういうところ来るとさ、啓一『美味しそうだよね』とか言うんだよ。水族館もそうだし、動物園とか、プニプニ太ってるウサギ見ても美味そうに見えるみたいで」
「動物園とか行くんだねー意外だなー。ふたりとも大人っぽいのに」
「別に大人っぽくねぇって、既にわかってもいい頃じゃね?」
「まぁ、最近は年相応の部分もわかってきたけどね」
「だろ?みんな勝手なイメージ持ちすぎなんだって。でも、ま、水族館や動物園に行きたいっつったのは、俺や啓一じゃないけどな」
「え?」
「千秋がさ、こういうところ好きで。登別まで行ったことあるんだぜ」
「そう、千秋ちゃんが…」
「あいつのワガママに付き合わされて、結構色んなとこいったなぁ」
 遠矢は水槽を泳ぐ色鮮やかな熱帯魚を目で追い、昔を思い出していた。
 こうやって千秋や啓一と出かけたときのことを重ね、懐かしさを感じていた。
「あ、ねぇ」
 美紀は遠矢の腕を掴んだ。
「お腹すかない?イルカ見るまで、何か食べようよ」
「あ、ああ。いいけど…」
「あっちに何か食べれるところあったよ。いこっ」
 美紀は遠矢の腕を掴んだまま、道を誘導した。遠矢は余程腹が空いていたのかと、呑気にそんなことを考えていた。
 その後、イルカのショーを見終わったふたりは、お土産屋へ寄った。
 美紀は友人と家族にお土産を買っていた。遠矢は家族には必要ないと、啓一と千秋、浩輔の顔が浮かんだので、その3人に小さなペンギンのぬいぐるみをチョイスした。
 浩輔などは本気でいらないと言い出しそうだったが、似合わないそのぬいぐるみを手に取った浩輔の顔も面白そうだと思った。なぜペンギンのぬいぐるみにしたのか美紀に訊かれ、遠矢は「千秋が好きだからさ、ペンギン」と、平然と答えた。
 美紀の顔が歪んだことに、遠矢は気づかなかった。