何も言えず、ただ差し伸べられた手を見つめる。
揺れるこの想いをどうすればいいのか…

 「夏華」

「…こんな、私でいいの?」

彼が呼んだ私の名前。
その響きだけで心がホッと温かくなる。

いつも辛い時、涙を見せるのは彼の前だった。
そんな優しい彼の手を取っていいのだろうか…

 「夏華じゃないと意味なんてありません。貴方の代わり何ていないのだから」

彼は笑って私の頬を撫でる。

私がちゃんと前を向いて歩けるようになったら、
その時は伝えよう。

“好き”の2文字を…

今の私にはこれが精一杯の返事。

 「っこちらこそよろしくお願いします」

まだ時間はかかると思う。
だけど彼の想い引かれているのは確かだった。

そっと手を遠慮がちに握れば彼はその手を引き寄せ、私を抱きしめた。

「はい。よろしくお願いします」

もう後ろばかり見るのは止めよう。
輝琉と一緒に前を向いて歩いて行こう。