温かい手が冷たくなった頬を撫でる。
彼は後ろから抱きしめ、私の視界を手で覆っていたのだった。

 「夏華さんは何も見てませんよ」

耳元で囁かれた言葉。
本当にその言葉が真実だったらよかったのに…

彼に迷惑させまいと口を開く。

 「だ、大…丈夫だよ。ひ、かる君」

こんな声で言ったって信じてはもらいないけど、今は早く独りになりたかった。
叫びたかった。
苦しくて、
苦しくて、
仕方がないこの感情を吐き出したかったのだ。

それなのに彼はそれを許さない。

 「夏華さんの大丈夫は信じられないです」

突き放したくてもそんな力を持ち合わせていない。
何とか涙を止めようと唇を噛み締めた。

 「っもう、あの人たちはいない?」

 「はい」

 「じゃあ手を離して?」

彼はそっと私が言ったとおり目を覆っていた手を退かした。

もう彼らの姿はどこにもなかった。