言われて初めて、前髪から滴る雫に気づく。
 確かに、ちゃんと頭を拭いていなかった。お化けと言われても仕方ない。



 肩に掛けていたタオルで頭を拭き直す。
 咲良はその間に椅子を戻していた。




「で? お前、何やってたわけ?」




 俺が聞くと、咲良は顔を真っ赤にして何かを隠す。




「なんでもない!」




 隠したものに心当たりがある。あの日に俺を泣かせた手紙。ラブレターだ。



 それを受け取るわけにはいかない。
 見るわけにはいかない。



 何が何でも、それだけは阻止しなければならない。
 俺は無視を決め込む。



 咲良は何気なくテレビをつける。
 バラエティ番組を観るフリをしているが、耳が赤くなっている。全く内容が頭に入っていないのがバレバレだ。わかりやすい奴。