母さんはまだ仕事をしているみたいで、いつも帰ってくる6時になっても階下が静か。



 あれから異常なくらいに元気に振る舞う母さんが痛々しくて、俺は最近避けるようになってしまった。
 母さんが帰る前に家を出る。今日は特に母さんに会いたくなかったから。そんな気分。



 昼間に熱せられたアスファルトが容赦なく俺を攻撃する。



 いつの間にか家の前の庭が草まみれだ。
 あんなに元気な声を出していたが、母さんだって落ち込んでいるに違いない。



 俺は早足で家を離れた。
 外に出れば忘れられる。



 そう思っていたが、間違いだった。どこへ行っても咲良との思い出しかない。