「諦めたわけじゃない。聞いていたんだろ? これは契約だ」
俺は咲良の前に置いたそれを指さす。婚姻届だ。
「咲良を死なせたくはない。でも幸せにしてやりたい。だから、あんたの真似をしたんだ」
「ほう。して、代償は?」
「同じだ。想いを告げない。どんなに寂しくても、咲良に言うつもりはない」
最初に辛い選択をしたのは俺だ。それを咲良に強要していたことも確か。
冷たくしたり、離れたり、困らせたりと、咲良を俺の螺旋に巻き込んだ。
だから、出来れば咲良だけは守りたい。
「馬鹿なことを考える」
「馬鹿なりに導き出した答えだ」
「不合格、だ」
「――――え」
不合格。
その言葉に、俺は咲良の死を覚悟した。姫巫女が作り出したルールだ。もしも、違反するようなことがあれば罰を受ける。
俺は敗北したんだ。



