「わからなくなったのは大学の時。わたしが亮ちゃんに会いに行った時」

「ああ、あの時?」

「……キス。訳がわからなかったよ」

「……ごめ……ん!?」




 俺は驚いて後ずさった。
 そこにあった机や椅子がガタガタと音を立てながら倒れる。



 訳がわからないのはこっちだ。




「亮ちゃん、落ち着いて」




 血圧が上がる。
 寒いはずなのに、暑くてコートを脱ぎたくなる。
 整理出来ない。頭が追いつかない。




「さ、さく、ら。知って? 気づいて……」

「うん」

「な……っ」

「そんなに驚かなくてもいいじゃない」

「あ……あ……」




 驚くだろう。つまり、咲良は寝ているふりをしていただけ。寝ていると思って俺はとんでもないことをしてしまった。



 いや、とにかく落ち着くんだ。



 いつの間にか泣き止んでいた咲良が、今度は笑いながら俺の反応を窺う。