ずっと忘れていたこと。
 思い出したんだと言えば、咲良の声が明るくなる。気持ちが温かくなった。



 それは、保育園での思い出のこと。
 高校の卒業式の日に咲良が教えてくれた、あの記憶。びっくりするくらい急に思い出したんだ。



 咲良の言う通りだった。



 迎えが遅くなるって聞いて、拗ねた俺は滑り台で雨にあたっていた。
 風邪をひいたらそばにいてくれるかもしれないとか、バカなことを考えて。



 でも一番は涙を隠すためだった。




『亮ちゃん。一緒に帰ろう』




 咲良が手を差し伸べてくれた。
 誰も俺のことなんて気にしてくれない。でも咲良は俺を気にしてくれた。



 咲良に呼ばれて安心した。
 だから、あの日は特に一緒にいたかったんだ。