「あら、お帰り。夕飯は?」
「いらない」
「明日、帰っちゃうんでしょ? せっかくなんだから、食べていきなさいよ」
「母さんのことだから、咲良を夕飯に誘ってるんだろ」
「ぐ……なんて鋭い息子なの。祐介くんも誘ったのに」
バカ正直に驚く母さん。本当に誘ったのか。油断ならない。
「余計なことするなよ。帰ってること、言ってないだろうな?」
「大学3年にもなると、もう大人ねぇ。母さんかなわない」
「外で食べる。適当な時間に帰るから」
「はい、はい」
玄関を出て駅前や商店街を避けるルートを頭で考えながら歩く。
咲良や祐介が自宅に来るなら、街中の飲食店に行っても鉢合わせることはない。
母さんの作戦は、ある意味ラッキーな展開だ。
「なに食うかな」
せっかく地元に来たんだからと、俺はここでしか味わえないものに決めた。



