『コラ!』
『もーうるさい!!』
無理やり段ボールを取られて、怒った咲良が見えた。
確か、この時から前髪がなかった。
目にかかるのが嫌だとか言って縛ったり、ピンでとめたりしていた。それも女の子らしくない。
『さっきの話聞いてた?』
『さっきの話?』
『……やっぱり聞いてなかった』
シュンと落ち込んでしまった咲良を見て、ちょっとだけ罪悪感。
幼いだけあって、俺は素直だった。
『で、なに?』
俺が聞くと、咲良の顔がぱっと明るくなる。
その満面の笑みを忘れていたなんて、俺はどうかしていたんだ。
『亮ちゃん、らせんって知ってる?』
『らせん? あの、絵描きだろ。海とかイルカとか描いてる――』
『それ、違う。そっち知ってる方が驚きだよ』