その場に座ると咲良が近くて、混乱してしまった。
 俺はおかしくなったのかもしれない。




「咲良」




 顔を近づけても全く起きなくて、ベッドに手をついていた。



 いつでも届く場所にいた咲良がこんなにも遠い。
 東京に来て、今まで幸せだったことを思い知らされる。



 久しぶりにそばにいる。やっと触れることが出来た。



 きっと今を逃したら、捕まえられない気がした。
 離れたくなかったんだ。



 警戒心のないお前が悪い。そんな言い訳をして。



 俺は咲良にキスをした。



 そして急に思い出す。
 お互いにまだ保育園児だった。あの時の咲良の言葉。




『ねえ、知ってる?』




 ずっと忘れていた思い出。



 心に響いてた言葉。優しくて、切なくて、バカバカしいと思っていた。



 でも、初めて咲良を幼なじみではない、一人の女の子として意識した日だった……。