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桜舞う景色に、俺は姫巫女を思い出す。
桜を見るたびに鮮明に思い出してしまうから、疑うこともなくなってしまった。不思議なほど、あの日あったことを素直に受け入れている自分がいる。
「亮、忘れ物はないわね?」
「ああ、大丈夫」
母さんに声をかけられて、俺は卒業アルバムを閉じる。それを乱暴に鞄に押し込んだ。
午前11時。駅のホームに人は少ない。
卒業式が終わって2日後。
俺は大学に通うためにこの街を出る。
何とか東京の大学に受かり、目的通りに2人から離れられる。有名な大学ではないが、それなりに頑張れたと思っている。
「本当に伝えなくていいの?」
「俺がそうしたいんだ」
「そう。なら、いいけどね」