まさかの、亮ちゃんという呼び方を受け入れたのは俺自身。記憶にないけど、雨の冷たさとかは覚えている。




「ちょっとだけ、思い出したかも」

「ほら。やっぱり忘れてただけなんだよ!」




 そうだ。咲良に見られたくなかったんだ。



 泣いているところなんて見せたくない。
 だから、雨の中にいた。



 咲良に呼ばれて、それが嬉しくて雨が好きになったのかもしれない。推測でしかないけど。




「わたしにとって、大切な思い出なんだ」

「じゃあ、その大切な思い出を覚えていない俺のことなんて嫌いだろ」

「そんなことないって」




 昔のことを話し出すなんて、どうしたのかと顔を覗けば微笑み返すだけ。
 咲良には何か思うところがあるみたいだけど、それを追求も出来ない。



 追求したら、変わってしまった俺のことにまで話が発展しそうな気がするんだ。
 だから、黙っていることにした。