俺は目に付いた椅子を引く。




「待て。そこは母さんの席だ」

「す、すみません」




 俺は横にズレて違う椅子を引く。




「そこは咲良の席だ」

「すみません!」

「冗談だ。そこに座っていなさい」




 冗談だったのか! 冗談がわからない。笑えばいいのか? 笑わない場面なのか? そもそも、どれが冗談だったんだ。



 助けてくれ、通訳してくれ、どうやって会話のキャッチボールすればいいんだ。



 そうだ。咲良の親父さん、無口だってずいぶん前に聞いた気がする。そんなこと、気にも止めてなかった。
 その前に仏頂面で黙っていられると、怒られている気分になる。



 とにかく俺は座る。まるで面接かのように、足を揃えて手は膝の上だ。