ーバケモノー
僕は大人にそう言われていた。僕は声が聞こえなかった。けど口の動きで理解した。どうやら僕の耳は悪いらしい。
ーなんで?ー
僕の言葉は彼らには届かなかった。僕は家を出て村を歩いていた。視点はいつもより低い。すると、話に花を咲かせている人がカゴから果物を落とした。僕は果物を拾って渡す。
ー落としましたよ。
「ーーー!」
女は僕をみて驚いた。そして虫を払うかのようだった。僕は慌てたあまりに水たまりに尻餅をついてしまった。
ー何?この髪…?ー
僕は水たまりにうつる顔を見た。そこには、白髪の少年がいた。違和感があった。それに加えて左目に包帯がされている。
ーそうだ。これは母さんに熱湯をかけられたんだ。ー
僕は全てを思い出した。僕は流行病にかかりひどい高熱をだした。そして何日もうなされた。その結果、髪は白くなった。耳も悪くなった。母はそんな僕が迷惑だったのか、それとも美しさを好む母にとって老人のような息子は邪魔ものになったからか。彼女は僕に熱湯をかけてきたのだ。
ー生きるのも…疲れてきたな…ー
村の人々は僕を嫌った。つまりいらない人間なのだ。なら、生きていても意味はない。これ以上辛い目にあいたくはない。
「ーーー?」
誰かに声をかけられて僕は振り向く。十歳くらいだろうか、僕の前に女の子がいる。少女の髪は黒く美しく、それに加えて紅い唇、白い肌に美しい服を纏っていた。僕は呆然とする。バケモノの僕になんの用があるのだろうか。彼女は僕の前で手を振り、僕と同じ目線になった。そしてもう一度口を開いていた。
「ーーー?」
ーあ・な・た・の・か・み・は・ど・う・し・て・し・ろ・い・の?
彼女は首をかしげる。彼女はこの村の人ではないらしい。僕は元気な時に発していたときの動作を思い出しながら言葉を綴る。
ー流行、病で、高熱、の、際に髪は、白、くな、った
彼女は驚き謝るそぶりをする。僕は首を振った。彼女は僕の髪に触れようとする。僕は驚いて固まってしまった。
ーあ・な・た・の・か・み・は・く・も・み・た・い・に・き・れ・い
ーえ…?ー
僕はその口の動きを見てびっくりした。彼女は嬉しそうに髪を触っている。
僕の頰には涙が流れた。彼女は驚いた。僕は手でそれに触る。とまることはなかった。彼女はおろおろしていたが最後は僕の側にいてくれた。
ーあたたかい。彼女といると幸せな、気持ちで満たされるー
僕はそのあたたかさに惹かれた。彼女はいつも僕に会うと駆け寄ってくれた。
ー彼女を守りたい。ずっと、笑顔でいてほしいー
僕はいつしかそう願っていた。
『だ、から、月よ。僕の、願い、を、叶え、て。彼女、をー』
ーー桃瀬sideーー
「遅いっ!麻里!」
「…ご、ごめん。あの…、でもこれはやりすぎなんじゃないかな…。」
麻里は丸い体をさらに丸めていた。彼女の手には油がある。無論、私が彼女に強制させたのだ。彼女の靴を油まみれにすることを。
「別にいいんじゃない?明日には学校復帰してるし、ちゃんと持って帰ってあらうでしょ?そのまま帰っちゃえばいいのに。」
楓は別件の嫌がらせを命じた。私はメイク道具ポーチから鏡を取り出した。さまざな角度から自分をみる。
「で、でも…!」
「あのさー。いい加減被害者面やめてよ。ストーカーされてる気持ちを理解してあげなよ。被害者意識はあって加害者意識はないの?」
私は鏡をポーチに戻す。麻里は体を震わせ、びくびくしている。
「はい。私の鞄、ちゃんと見張っててね。私のいない隙に何かやってもわかるようにしてあるから、悪戯したら許さないからね。」
「あっ…!どこいくの?」
「ああ。私のペットを迎えにいくのよ。」
私は上機嫌でその小教室を後にした。
私は鍵で美術室に入った。まだ彼は来ていないようだ。私は計画をおさらいした。まず、今回のターゲットは司馬君。前から私の彼氏として目をつけていた。私は彼に同情される。そして彼女を学校から追い出すのに利用する。
ーここ一週間で彼とはかなりのスキンシップをとった。結構仲良くなったからいけるはずだ。
いざとなれば自身の身体を使えばいい。落ちない男はいない。それに彼には私に見合う価値があるのだからご褒美としては釣り合いがとれる。
ガラッ
ドアが開いた。私はドキドキしながら後ろをみる。
「えっ…………?」
そこには白石くんがいた。
「あれ?どうしたの桃瀬さん。なぜここにいるの?」
「人を待っているのよ。それより、白石くんこそどうして?」
「用があったんだ。ーー君に。」
彼は後ろ手に鍵を閉めた。私は驚いて机から飛び降りる。白石くんは顔色ひとつ変えない。
「本題に入るよ。ーーー僕は言ったはずだ。彼女を傷つけるな、と。」
「……何言ってんの?意味わかんない。私がそんなことするわけないじゃない。」
私は白石君を目で捉える一方で脱出策を講じる。
「へぇ…。そう。」
彼はポケットから何かを取り出した。ーカッターナイフだった。彼は刃の部分をゆっくりとだしてくる。
「……ひっ!?な、何を考えてんのよ!?なんでカッターナイフを…!?」
「…別に。だしているだけだよ。」
彼は少しずつ近づいてくる。私の足は震えた。額から脂汗が出てくる。
「…覚えてる?高一の頃、君さ、光に嫌がらせをたくさんした挙句髪を切ったよね。」
「…確かにしたわ。だけどなんで今頃それなのよ。関係ないじゃない。」
「あるよ。今回の一連は全て君だろ?」
彼は私の間合いに入って来た。私は彼が足を踏み出そうとした瞬間、かれの横を通り抜けようとする。
ズブッ
「ひいっ…!?」
私の目の前にはカッターナイフが深々と絵に突き刺さっていた。絵の少女の眉間にはナイフが刺さっている。
「な、なにするのよ!?危ないじゃないっ!!」
「これくらいのことで怒るわけ?」
彼の綺麗な顔はまっすぐとこちらを見つめる。鋭い光があった。
「鉄パイプ、あれ、下手したら死ぬよね?」
彼はカッターナイフを絵から引き抜く。私は壁にもたりかかるようにして地面に座る。腰が抜けて動けないのだ。
「し、…しらない。」
「お金もそうだよね。君がやったんでしょ?」
「し、しらないってばっ!!」
私は強く否定する。彼はそんな私を上からじっと見ていた。
ーまさか、白石君がここに、くるなんてっ、その上こんなことをしてくるなんて…!!
「まあ、別にどうでもいいや。そんなこと。」
「へっ?」
私は一瞬のチャンスに心から喜ぶ。
「別に、やっていなくてもやっててもどうでもいいから。」
彼はカッターナイフを私の足に刺そうとしてくる。
「…っ!?」
私は素早く避けて距離をとった。
「なんでっ!?」
「前から僕は不愉快だったんだ。だからいつかはしようと思ってた。それがたまたま今日なだけ。」
彼はゲームでもしているのか必死になって追いかけてはこない。私を追い詰めて遊んでいるようだった。
「だから…ってさ?優等生の白石君なら知ってるよね。人を傷つけたら警察行きだよ。」
「そうだね。君はその時地獄かな?」
「はぁ?ふざけないでよっ!?
「ふざけてないよ。もしかしたら僕は一生を牢屋で過ごすかもしれない。けど、別にいいんだ。…彼女が幸せなら。」
次の攻撃もなんとか避けた。しかし、私の髪は一束床に落ちた。私はドアに駆け寄る。しかし、開くことはなかった。
ーガムッ?!
私はおどろいた。ドアの鍵の部分にはガムがある。彼は私にちかづいてくる。
ーどうする?飛び降りる?けど、ここは三階。落ちればただではすまない。もしかしたら死ぬかもしれない。
私の焦る気持ちを知ってか知らずか、彼の足音は大きくなる。私は彼の顔を見つめる。それはまさに人を傷つけようもする目だった。
ー本当のことを言って許してもらおう。
「ま、待って!話すわっ!私が全てやったの!だから…!」
「どうでもいいんだよ。」
彼のカッターナイフは大きくふりかぶられた。
ー刺されるーーっ!
「…駄目だよ。白石。人を傷つけたら。」
ーえ?
私は目を見開いた。そこには隣のクラスの柚木君がいた。彼の手はカッターナイフの刃の部分を強く握っていた。
「…。手、話して。柚木…。」
「離さないよ。」
柚木君の顔は痛みからか少し歪めていた。私は頭が真っ白になっていた。
「彼女は自白した。そして今から全てを先生たちに話してもらう。それで解決のはずだ。」
私は白石君を見つめる。白石君はカッターナイフからこぼれ落ちる血を見つめた。
「…そう。じゃあ、後は任せたよ。」
白石君はそう言って割れた窓からでていった。私は早まっていた心臓を抑える。
「…あ、ありが」
「別に、俺は君を助けたつもりはない。白石が傷つくのは彼女が嫌がるから。」
私は呆然とした。また、伊澤さんだった。
「桃瀬さんの証拠は粗方揃ってる。それに、彼と約束したんだ。…ここで逃げたら君は本当にあの世行きだ。」
柚木君は立つように促してきた。私は渋々たった。
「……なんで、伊澤さんなの?見た目も何もかも普通なのに…。なんで好かれるの…。」
私の本心は漏れていた。私はどうしても知りたかった。あの女が好かれる理由を。その質問に答えを返すつもりのようで、彼は私を見ながらいった。
「彼女は僕の大切な人だから。だから彼女には幸せになってほしいんだ。」
ーーNOsideーー
「おかえり。どうしたの?遅刻するなんて珍しいね。」
図書室には司馬がいた。机に座っていた。
「…別に。どうもしないよ。それより、机から降りたら?」
白石は司馬にそう言って本をいくつかとる。司馬は窓辺に寄りかかる。
「…あ、僕宛ての手紙捨てといてね。あと、読む気もなかったけど人の手紙を持ってったら駄目だよ?」
「…ごめんね。どうしても欲しかったんだ。」
白石のポケットからは血で濡れたハンカチとカッターナイフが窺える。
「…。あと、…女の子のものはとったらいけないよ。」
「僕は借りただけだよ。明日にでも返すさ。」
白石は本を取り出した。『鬼の歴史』。
「…。ねえ、聞きたいことがあるんだ。」
「何?僕は君ほど賢くないから答えるのには限界がー」
「君は、どこまで思い出したのー?」
白石は本を落とした。その音は空っぽな音だった。茜色の空の光が図書室のガラスを一層きれいに輝かせた。
「…司馬君…。君はー…。」
「………。」
司馬は窓辺で静かに笑っていた。
僕は大人にそう言われていた。僕は声が聞こえなかった。けど口の動きで理解した。どうやら僕の耳は悪いらしい。
ーなんで?ー
僕の言葉は彼らには届かなかった。僕は家を出て村を歩いていた。視点はいつもより低い。すると、話に花を咲かせている人がカゴから果物を落とした。僕は果物を拾って渡す。
ー落としましたよ。
「ーーー!」
女は僕をみて驚いた。そして虫を払うかのようだった。僕は慌てたあまりに水たまりに尻餅をついてしまった。
ー何?この髪…?ー
僕は水たまりにうつる顔を見た。そこには、白髪の少年がいた。違和感があった。それに加えて左目に包帯がされている。
ーそうだ。これは母さんに熱湯をかけられたんだ。ー
僕は全てを思い出した。僕は流行病にかかりひどい高熱をだした。そして何日もうなされた。その結果、髪は白くなった。耳も悪くなった。母はそんな僕が迷惑だったのか、それとも美しさを好む母にとって老人のような息子は邪魔ものになったからか。彼女は僕に熱湯をかけてきたのだ。
ー生きるのも…疲れてきたな…ー
村の人々は僕を嫌った。つまりいらない人間なのだ。なら、生きていても意味はない。これ以上辛い目にあいたくはない。
「ーーー?」
誰かに声をかけられて僕は振り向く。十歳くらいだろうか、僕の前に女の子がいる。少女の髪は黒く美しく、それに加えて紅い唇、白い肌に美しい服を纏っていた。僕は呆然とする。バケモノの僕になんの用があるのだろうか。彼女は僕の前で手を振り、僕と同じ目線になった。そしてもう一度口を開いていた。
「ーーー?」
ーあ・な・た・の・か・み・は・ど・う・し・て・し・ろ・い・の?
彼女は首をかしげる。彼女はこの村の人ではないらしい。僕は元気な時に発していたときの動作を思い出しながら言葉を綴る。
ー流行、病で、高熱、の、際に髪は、白、くな、った
彼女は驚き謝るそぶりをする。僕は首を振った。彼女は僕の髪に触れようとする。僕は驚いて固まってしまった。
ーあ・な・た・の・か・み・は・く・も・み・た・い・に・き・れ・い
ーえ…?ー
僕はその口の動きを見てびっくりした。彼女は嬉しそうに髪を触っている。
僕の頰には涙が流れた。彼女は驚いた。僕は手でそれに触る。とまることはなかった。彼女はおろおろしていたが最後は僕の側にいてくれた。
ーあたたかい。彼女といると幸せな、気持ちで満たされるー
僕はそのあたたかさに惹かれた。彼女はいつも僕に会うと駆け寄ってくれた。
ー彼女を守りたい。ずっと、笑顔でいてほしいー
僕はいつしかそう願っていた。
『だ、から、月よ。僕の、願い、を、叶え、て。彼女、をー』
ーー桃瀬sideーー
「遅いっ!麻里!」
「…ご、ごめん。あの…、でもこれはやりすぎなんじゃないかな…。」
麻里は丸い体をさらに丸めていた。彼女の手には油がある。無論、私が彼女に強制させたのだ。彼女の靴を油まみれにすることを。
「別にいいんじゃない?明日には学校復帰してるし、ちゃんと持って帰ってあらうでしょ?そのまま帰っちゃえばいいのに。」
楓は別件の嫌がらせを命じた。私はメイク道具ポーチから鏡を取り出した。さまざな角度から自分をみる。
「で、でも…!」
「あのさー。いい加減被害者面やめてよ。ストーカーされてる気持ちを理解してあげなよ。被害者意識はあって加害者意識はないの?」
私は鏡をポーチに戻す。麻里は体を震わせ、びくびくしている。
「はい。私の鞄、ちゃんと見張っててね。私のいない隙に何かやってもわかるようにしてあるから、悪戯したら許さないからね。」
「あっ…!どこいくの?」
「ああ。私のペットを迎えにいくのよ。」
私は上機嫌でその小教室を後にした。
私は鍵で美術室に入った。まだ彼は来ていないようだ。私は計画をおさらいした。まず、今回のターゲットは司馬君。前から私の彼氏として目をつけていた。私は彼に同情される。そして彼女を学校から追い出すのに利用する。
ーここ一週間で彼とはかなりのスキンシップをとった。結構仲良くなったからいけるはずだ。
いざとなれば自身の身体を使えばいい。落ちない男はいない。それに彼には私に見合う価値があるのだからご褒美としては釣り合いがとれる。
ガラッ
ドアが開いた。私はドキドキしながら後ろをみる。
「えっ…………?」
そこには白石くんがいた。
「あれ?どうしたの桃瀬さん。なぜここにいるの?」
「人を待っているのよ。それより、白石くんこそどうして?」
「用があったんだ。ーー君に。」
彼は後ろ手に鍵を閉めた。私は驚いて机から飛び降りる。白石くんは顔色ひとつ変えない。
「本題に入るよ。ーーー僕は言ったはずだ。彼女を傷つけるな、と。」
「……何言ってんの?意味わかんない。私がそんなことするわけないじゃない。」
私は白石君を目で捉える一方で脱出策を講じる。
「へぇ…。そう。」
彼はポケットから何かを取り出した。ーカッターナイフだった。彼は刃の部分をゆっくりとだしてくる。
「……ひっ!?な、何を考えてんのよ!?なんでカッターナイフを…!?」
「…別に。だしているだけだよ。」
彼は少しずつ近づいてくる。私の足は震えた。額から脂汗が出てくる。
「…覚えてる?高一の頃、君さ、光に嫌がらせをたくさんした挙句髪を切ったよね。」
「…確かにしたわ。だけどなんで今頃それなのよ。関係ないじゃない。」
「あるよ。今回の一連は全て君だろ?」
彼は私の間合いに入って来た。私は彼が足を踏み出そうとした瞬間、かれの横を通り抜けようとする。
ズブッ
「ひいっ…!?」
私の目の前にはカッターナイフが深々と絵に突き刺さっていた。絵の少女の眉間にはナイフが刺さっている。
「な、なにするのよ!?危ないじゃないっ!!」
「これくらいのことで怒るわけ?」
彼の綺麗な顔はまっすぐとこちらを見つめる。鋭い光があった。
「鉄パイプ、あれ、下手したら死ぬよね?」
彼はカッターナイフを絵から引き抜く。私は壁にもたりかかるようにして地面に座る。腰が抜けて動けないのだ。
「し、…しらない。」
「お金もそうだよね。君がやったんでしょ?」
「し、しらないってばっ!!」
私は強く否定する。彼はそんな私を上からじっと見ていた。
ーまさか、白石君がここに、くるなんてっ、その上こんなことをしてくるなんて…!!
「まあ、別にどうでもいいや。そんなこと。」
「へっ?」
私は一瞬のチャンスに心から喜ぶ。
「別に、やっていなくてもやっててもどうでもいいから。」
彼はカッターナイフを私の足に刺そうとしてくる。
「…っ!?」
私は素早く避けて距離をとった。
「なんでっ!?」
「前から僕は不愉快だったんだ。だからいつかはしようと思ってた。それがたまたま今日なだけ。」
彼はゲームでもしているのか必死になって追いかけてはこない。私を追い詰めて遊んでいるようだった。
「だから…ってさ?優等生の白石君なら知ってるよね。人を傷つけたら警察行きだよ。」
「そうだね。君はその時地獄かな?」
「はぁ?ふざけないでよっ!?
「ふざけてないよ。もしかしたら僕は一生を牢屋で過ごすかもしれない。けど、別にいいんだ。…彼女が幸せなら。」
次の攻撃もなんとか避けた。しかし、私の髪は一束床に落ちた。私はドアに駆け寄る。しかし、開くことはなかった。
ーガムッ?!
私はおどろいた。ドアの鍵の部分にはガムがある。彼は私にちかづいてくる。
ーどうする?飛び降りる?けど、ここは三階。落ちればただではすまない。もしかしたら死ぬかもしれない。
私の焦る気持ちを知ってか知らずか、彼の足音は大きくなる。私は彼の顔を見つめる。それはまさに人を傷つけようもする目だった。
ー本当のことを言って許してもらおう。
「ま、待って!話すわっ!私が全てやったの!だから…!」
「どうでもいいんだよ。」
彼のカッターナイフは大きくふりかぶられた。
ー刺されるーーっ!
「…駄目だよ。白石。人を傷つけたら。」
ーえ?
私は目を見開いた。そこには隣のクラスの柚木君がいた。彼の手はカッターナイフの刃の部分を強く握っていた。
「…。手、話して。柚木…。」
「離さないよ。」
柚木君の顔は痛みからか少し歪めていた。私は頭が真っ白になっていた。
「彼女は自白した。そして今から全てを先生たちに話してもらう。それで解決のはずだ。」
私は白石君を見つめる。白石君はカッターナイフからこぼれ落ちる血を見つめた。
「…そう。じゃあ、後は任せたよ。」
白石君はそう言って割れた窓からでていった。私は早まっていた心臓を抑える。
「…あ、ありが」
「別に、俺は君を助けたつもりはない。白石が傷つくのは彼女が嫌がるから。」
私は呆然とした。また、伊澤さんだった。
「桃瀬さんの証拠は粗方揃ってる。それに、彼と約束したんだ。…ここで逃げたら君は本当にあの世行きだ。」
柚木君は立つように促してきた。私は渋々たった。
「……なんで、伊澤さんなの?見た目も何もかも普通なのに…。なんで好かれるの…。」
私の本心は漏れていた。私はどうしても知りたかった。あの女が好かれる理由を。その質問に答えを返すつもりのようで、彼は私を見ながらいった。
「彼女は僕の大切な人だから。だから彼女には幸せになってほしいんだ。」
ーーNOsideーー
「おかえり。どうしたの?遅刻するなんて珍しいね。」
図書室には司馬がいた。机に座っていた。
「…別に。どうもしないよ。それより、机から降りたら?」
白石は司馬にそう言って本をいくつかとる。司馬は窓辺に寄りかかる。
「…あ、僕宛ての手紙捨てといてね。あと、読む気もなかったけど人の手紙を持ってったら駄目だよ?」
「…ごめんね。どうしても欲しかったんだ。」
白石のポケットからは血で濡れたハンカチとカッターナイフが窺える。
「…。あと、…女の子のものはとったらいけないよ。」
「僕は借りただけだよ。明日にでも返すさ。」
白石は本を取り出した。『鬼の歴史』。
「…。ねえ、聞きたいことがあるんだ。」
「何?僕は君ほど賢くないから答えるのには限界がー」
「君は、どこまで思い出したのー?」
白石は本を落とした。その音は空っぽな音だった。茜色の空の光が図書室のガラスを一層きれいに輝かせた。
「…司馬君…。君はー…。」
「………。」
司馬は窓辺で静かに笑っていた。

