綺麗な光景だ。身体はまるで魚のような身のこなしで水の中を泳いでいた。漂う水の感覚は居心地がいい。
ー誰かが私を呼んでる。
私は体を水面へと浮上させる。そこには知らない青年がいた。
ー誰だろう。
青年の身なりはしっかりしている。青年は驚いた表情で私を見ていた。蒼じゃない。
ー…?あ、服着てないや。
青年は慌てた様子でうしろを向く。私は陸地に上がり木にかけていた服を着る。
ーもう振り返っても大丈夫だよ。私、服着たし。
私は彼のほうを見る。彼は私を見た。
「ーーー。」
彼の顔は赤い。どうやら女の裸を見慣れてはいないらしい。
ー珍しい。いても良さそうなのに。
私は彼と何やら話しているようだった。池を指差した。その池はとても美しく、キラキラと輝いていた。彼は嬉しそうに笑う。
ー綺麗だね。
私は彼に微笑んだ。
ーあれ?
いつの間にか彼はいなかった。私だけが池にいた。池には月がうつっていた。私は池に進む。薄暗い、けれど美しい池は私を誘うかのようだった。
ーあ、月が揺れてる。
私は湖の中上を向いた。月が揺らいでいた。
ー月が泣いてるみたい。
私が出した息は月の涙のようだった。私はいつの間にか自分が涙を流している気がした。月が愛しく思えた。私は月に手を伸ばす。
ー大丈夫?
私は目を閉じていた。水は冷たい。けれど抱きしめてくれてるように感じた。
ーー司馬sideーー
ー彼女は学校を停学している。
疑われるのは仕方がない。物品がでたのだから。学校側も何かしらの対応をしなくてはならない。
ーにしては、やけに落ち着いているな。
隣にいる人物は彼女の幼なじみだ。昨日の今日だが彼は部活に顔を出していた。僕と彼女が探した資料についてまとめている。
ー両思い、か。
彼と彼女は確かに他人には入れないような壁がある。一緒に行動していて分かったが、彼女は彼をとても信頼している。お互いがお互いを支えあっていた。僕が入り込む余地もないほどに。
彼女は笑顔だ。白石が倒れたときは我を忘れるほど動揺していた。彼女は泣きそうになっていた。
ー近すぎて、気がつかない…のかな。
ズキッ
胸の奥が痛む。
ーもし、僕が彼より早くにあっていたなら。変わっていたのだろうか。
彼女は僕をいつも気にかけてくれるだろうか。彼女は頼ってくれるのだろうか。それとも、彼女に告白でもすれば意識をしてくれるのだろうか。
ー僕は彼女に思いは伝えない。伝えてはいけない。
彼女の仕草は愛おしく思えた。不貞腐れたり、目を大きく見開くところも、笑いながら訳のわからないことをいうところも。
ー彼女には笑顔でいてほしい。だから、白石と付き合うことがベストのはずだ。
「白石、落ち着いてるね。幼なじみのことが心配じゃないの?」
彼は僕を見て目を見開く。
「心配してるよ。こう見えても。光は自分のために泣かないから。きっと、今も両親のことで泣いてると思う。」
彼はプリントを僕に渡す。僕はプリントを確認する。
ー泣いてると思う?その反応は何。
白石は恵まれた立ち位置だ。僕が出来ないことも出来る。けれど、何もしようとはしない。
ー何でだよっ!!
歯がゆい。僕は出来ないから。彼女を幸せには出来ないから。
「何もしないの?」
「まさか。」
彼は手を止めて僕に笑う。
「光を悲しませる奴。僕が許す訳がないよ。」
彼はそう言って目を鋭くさせた。