ーー朔sideーー

夕方、僕は何故か公園にいた。部活はさぼった。子供が少しいた。
「きゃっ!」
目の前の子供が転ぶ。
「大丈夫か?」
他の子供が駆け寄る。こけた子供が泣いた。駆け寄った子供は必死にあやしている。

ーそういえば、ここで初めて光とあったんだ。

ー 母が死んだ、あの日。

身体は弱い人だったらしい。僕は骨と皮だけ、写真でみていた昔の美しい母とは似つかわないものを幼心でも理解していた。父は母と僕をなかなか会わせることはなかった。

ー会っていたのは二、三回だった。母さんが死んだのは僕のせいだ。

彼女は僕を産む時難産だったらしい。それで身体を更に悪化させたらしい。父は弱る母をみていた。

『…お前のせいで!お前が生まれなければ…!』

父は僕を殴った。頰は腫れあがった。泣くこともできなかった。泣くしかくもなかった。

ー僕のせいだから。だから母さんは死んだ。

僕は家を飛び出した。そして公園の遊具に隠れた。夕方で人はいない。ただ通り過ぎる人を見つめていた。

『どうしたの?』

そこに女の子が現れた。僕は無表情な顔のままみた。

『…つらいの?』

『…つらくない。』

『そっか。じゃあ一人でいちゃ駄目だよ。一人は寂しいよ?』

ー僕はつらくないのに。

彼女は僕の隣に座る。ワンピースが土で汚れる。

ー一人にして欲しい。

『名前はなんていうの?』

『どうでもいいだろ。あっち行ってよ。』

『えー。嫌!』

『…いいから!離れろよ!』

僕は彼女を突き飛ばした。彼女はポカーンとした顔で見てくる。彼女の膝からは血が出ている。僕は焦った。

ー傷つけるつもりなんかなかったのに。

『…私は大丈夫だよ?』

彼女は何事もなかったかのように笑う。

ー嘘だ。血がたくさん出てる。

血は彼女の靴下にも染み込んでいた。

『こっち来て!』

僕は彼女を蛇口まで引っ張った。彼女の足を洗う。彼女は僕をみる。

『ねぇ。私は大丈夫だよ。だから平気だよ。よくこけるんだ。だから…』

『何で!平気じゃないだろ!痛いのに平気なんてない!』

ー『朔。大きくなったわね。え?私は大丈夫よ。心配しないで。』ー

母さんらしい人物は僕に笑っていた。けれど彼女の身体は管だらけだった。



『…確かに痛いのかも?』

ー…はっ?何で?

『でも、洗ってくれたし平気。それよりも…』

彼女はハンカチを取り出して水で濡らす。

『あなたのほっぺも痛いよね?』

彼女はほっぺにハンカチをあてた。

『僕は平気ー』

『平気じゃないよ。赤いもん』

彼女は頭をぽんぽんと叩く。

『痛いの、痛いの、飛んでけー』

彼女は何か言い始める。

『…。え?』

『おまじない。痛いのがどこかに行くんだよ。痛いのー』

僕は頭を叩かれて呆然とした。次第に僕の目からは涙が出ていた。僕はいつの間にか大声で泣いていた。彼女は僕を抱きしめた。

『大丈夫だよ。』

彼女は笑って僕の頭を撫でていた。





あの後、父が僕を探しに来て抱きしめた。何度も謝罪の言葉を口にする。彼女は僕が父に抱きしめられた後にはいなかった。

彼女は自分のことでは泣かない。人が傷つくことに泣く。

ー今頃泣いているのだろうか。

両親が泣いてるのを彼女が心配していたのが窓から見えた。

「…無理しないでほしいのに。」

僕は拳を握る。

ー許せない。彼女を傷つけるやつは…。

僕は踵を返して帰途に着く。




ーー光sideーー


手はじんじんと痛む。身体は重い。食欲もない。

ーああ。動かないと。お母さん達が心配する。

しかし動くことができなかった。頭が割れるような頭痛。眩むような目眩。

ー気持ち悪い。

クラスメイトの視線と言葉がナイフのように突き刺さる。

ーそういえば、昔も嫌がらせがあったな。

中学生の時、髪を切られた。その子は数日後、学校を転校したけど。

ー皆に誤解されたかな。

朔は私を見むきもしなかった。冬ちゃんも。私は悲しくなった。

ー違うっていって欲しかった。光はそんなことしないって。


私は目を閉じた。

ーゆめだったらいいのに。起きたら全て嘘だって…そうなればいいのに。

そして私は重いまぶたを閉じて眠りについた。