私は火をみていた。少年、蒼は私の隣で拙く、けれど一生懸命に説明をしてくれる。

ーきれい。

触りたい。触れたいと思った。

「ーーーっ!」

しかし私の手はその火をつかみたいと思った。けれど次の瞬間、身体にじりじりとする痛みを感じた。

ーどうしてだろう?

私はそう思うもつかの間、ひどい眠気に襲われる。

私は所在ない手を握りしめる。大人の人はなにやら騒がしく騒ぎ始める。

ーごめんなさい。悪気はなかったの。私のことは気にしないでー

私は閉じられる目を開けようとするもできなかった。






朔はそれから数日間来なかった。今日は明日の本格的な準備に勤しんでいた。朔がいなくなり生徒会は、大慌て。生徒会長も倒れるのではと皆が心配した。

ーま、ばちが当たったのよ。

私は朔に無理をさせた生徒会を責められずにはいられなかった。朔が心配で家にいってみるものも。熱が酷いらしく、あわせてはもらえなかった。木に登ろうかと思ったが以前見た夢で朔を悲しませたくなかったので、万一のことを考えてやめることにした。

ー朔、大丈夫かな。

私は地面を見ながら裏の倉庫に辿り着き石灰の袋を取ろうとする。

ガコンッ

「えっ。」

私は足でも当たったのか立てかけていた鉄パイプが倒れてくるのをみた。

「ーーっ!?」

私はかわそうとするも間に合わなかった。





「はい。湿布ね。」
「あ、ありがとうございます。」
またもや保健室でお邪魔することになった。
「んー。大して酷くはないわね。でも、大事を取ってリレーとか騎馬戦は出るべきではないわ。」
「そ、そんな!」
「他の競技なら…まあ、走るのはほどほどにね。早歩きでもしなさいな。あなたの早歩きは走るのと同じくらい早いから。」
私は救急箱をとじた先生をみながらショックをうけた。

ー…まさかの、私が出る種目は障害物借り物競争だけになってしまった。

私は少し痛む足を持ち上げながらグラウンドに向かう。

「大丈夫!?光!」
冬ちゃんが私に声をかけてくる。
「…よかった。顔とかに傷はないんだね。にしても不思議。なんで立てかけてあったのかな。」
「えっ?そうなの?」
冬ちゃんは頷いた。
「流石に鉄パイプを立てかけたりするなんて危ないこと、普通はしないんだよ。先生達も慌ててたし。」
冬ちゃんはそういって怒られてる生徒を指差す。生徒と困惑しているようで弁明している。
「それで、足の具合は?」
「うん。なんでも、リレーと騎馬戦がダメだって言われた。」
私は笑いながら申し訳なさそうにいう。
「…困ったわね。リレーの代理って…あと、頼めるのは生徒会にいる子ぐらいだし…」
私はそれを聞いて悩む。
「ん?どうかしたのか?」
そこに生徒会長がきた。
「あ、生徒会で白組の飯田さんいるでしょ?リレーでこっちに回せない?この子怪我しちゃったの。」
「ああ、なるほど。でも、確か飯田は…。」
生徒会長は考えていた。
「じゃあ、代わりにリレーの時の仕事、手伝ってくれないかな。」
私はその案をのむことにした。




「…ふふっ。いい気味。」
桃瀬はほくそ笑んだ。手袋を外しゴミ箱に捨てる。

「でも、顔に傷がつかないのが残念。」
彼女はそういうと足早に去っていった。





「あ。伊澤さん。」
私は廊下を歩いていると柚木君に声をかけられた。
「柚木君。どうしたの?」
「白石元気かなって。…その足は?」
私は少し庇うようにして歩いてた足を前に向ける。
「これ?なんていうか、鉄パイプが倒れてきて、軽い捻挫。」
「…鉄パイプ?」
柚木君は知らないようで私に聞いてきた。
「そう。鉄パイプが立てかけてあったの。足とかでも当たったのかも知んない。暗くてよく見えなかったから。」
柚木君が心配そうに覗き込んでくる。
「大丈夫!私は平気!明日、ぜっったいに負けないからね!白組が勝つから!」
私はそういって彼に手を振って玄関に向かう。
「…無理しちゃ、駄目だよ。」
「…大丈夫。私は平気。」
私は彼に振り返らずにそう告げる。


ー柚木君は心配性なんだな。

私は彼の顔を思い出す。

ーありがとう。

私は幸せな心地がしていた。





ーー朔sideーー




「…っはあっ!はあっ……!」

ーとても嫌な夢だった。

ベトベトになった服を脱ぎ着替えようとベットから這い蹲るようにでる。

ーなんで、なんであの夢を見るんだ。

僕は混乱していた。夢は妙に感触がある。火も熱いと感じる。

ーまるで、体験したかのような…

『前世って信じる?』






一瞬光が昔言った言葉を思い出した。あの時、彼女は部屋に閉じこもっていた。心配した僕は彼女の家を訪ねていた。彼女は涙を流しながら言った。

『え?前世?』

僕はその言葉に驚く。僕は笑いそうになるも彼女の泣き顔をみて真面目に考える。

『…そうだね。前世か。僕はどんな生活をしていたんだろうね。』

僕の生活は幸せだ。母は身体が弱く早くに死んだが、母の代わりにお手伝いさんがいる。

『…きっと、幸せだったんじゃないかな。光はどう思う?』

『私ね。彼に行かないでって言ってるのに、置いていかれるの。暗い森の中でずっと走ってるの。』

ますます彼女は泣き始める。

ー泣かないで。

『…大丈夫だよ。僕は光を置いていかないよ。だから…笑って。ね?』




ー前世か…。

僕は震える手をなんとか宥める。しかし、そう思えて仕方ない。

目の前にある水差しに手を伸ばす。

ガシャンッ

透明なガラスは砕け散り床は水浸しになる。


夢の中の情景を彷彿とさせた。


「うわ、うわああぁぁぁ!!」

僕は泣いた。泣いて泣いて床を這いずり回る。そして月を見た。

ー月が恨めしい。夜が怖い。

僕はそう思いながらカーテンを閉め部屋に灯をつけた。

ー光も心配してるし、明日は学校に行こう。

僕は汗で濡れたパジャマを脱ぎ、水とガラスの破片だらけの床の上に投げた。