「いくわよ!せいっやっっ!」
冬の強烈なサーブが飛んでいく。

「うわっ!」
相手の女の子がそのボールに乗った力を受け止めきれずボールはあらぬ方向に飛んでいく。

「イェーイ!」
「さっすが冬!」
「ナイスサーブ!」
冬の周りに人が集まりだす。私も冬の近くに行く。
「冬ちゃん!ナイス!」
「まだまだいくんだから!」
私と冬ちゃんは手をハイタッチする。
今日は火曜日。体育は二時間続けてのバレーだった。私が先週頭でボールを打ったあのバレーだ。

ー今日は頭で打たない!

私はその意識を忘れないようにしていた。三年は運動会での専用種目がない。故に皆の希望でバレーになった。体育は二組合同。つまりは理系と文系が混ざって行う。

「ありゃ。」
冬のボールが相手にとられた。私達は全員で構える。

ーこのボールで決着がつく!

十五点マッチ、デュースなし。相手も私達と同じ十四点。あとはない。

見事な三段階を繰り広げる相手。私はボールを見つめる。前か後ろか。軌道を変えてくるか。私はその様子を注意深く見た。

トンッ

相手は軌道を変えることにしたようだ。ネットギリギリ。そこには百瀬さんがいた。私はボールを上げてくれることを願う。

「きゃっ。」

しかし、ネットギリギリはきつかったのだろう。ボールは上がることなく床に落ちた。
「ごめん!」
「大丈夫!あんなの取るの難しいよね!」
チームの皆で励まし合う。確かに今のはなかなか取れない。

「ゲームセット!ハイタッチし終わったら即負けたチームは審判!」
私達はハイタッチをして審判につく。すぐに次の試合が始まった。

「両者礼っ!!」
私はふと気になって隣のコートを見る。ちょうど司馬君が打つようだ。笛の音がなり彼はジャンプして打つ。相手の柚木君はそのボールを打ち上げた。そして仲間によるアタックは朔に向かう。
「よっと。」
朔はあの早い球に余裕があるのか。普通に打ち上げた。

ーえっ!

私は驚いた。朔は身長はまあ、あるほうだが体格のいい相手のボールを受け止められるとは思ってはいなかった。しかし、そのボールは仲間の連携のミス、アタック失敗により相手のボールに移動する。

ーあぁ!惜しい!

せっかく綺麗に決まってたのに。どうやら次は柚木君のようで後ろでボールを叩いている。笛の音が鳴る。

「えいっ!」
司馬君のように派手ではないが打ったボールはネットギリギリ。冬ちゃんのようにすごかった。

ーいや、逆だ。冬ちゃんが男子並にすごすぎるんだ。

私は一人で納得した。
私は朔を見る。
「っ!」
朔はボールを取るのにミスをした。

ーあれっ?

さっきまでの絶好調はどこへ行ったのだろうか。私は彼を見つめる。

ーそういえば月曜日も様子がおかしかった。

私は朔と話はした。けれど最低限の会話しかなかった。いつもならなんだかんだ言って世話をやきたがったりするのに…。

ー朔どうしたんだろう。悩みでもあるのかな。

私は転がってきたボールを拾い向かいのコートに投げる。

ー朔、無理してるのかも。力になりたいな。

私はそう思いながら陣地でとんでいるボールを目で追った。





放課後、私は歴研の資料を集めるために学校の中にある図書館に行くことにした。図書館はお世辞にもそこまで大きいとはいえないが綺麗なステンドグラスがある。人は全くいない。運動会のためだろう。歴研の下級生はやはり残り一週間と少しに迫った運動会のために付き合えないらしい。私は司馬君と一緒にいた。朔と話ができたらと思ったがどうやら生徒会も忙しいようだ。柚木君は塾。それで予定のない私達が資料を借りることになった。


「とりあえず、こんなところかな。ここから探していこう。」
柚木君は重たい資料を机の上にのせて席につく。
「そういえば、夢に進展はあった?」
「あ、そうそう!金曜日だったかな。進展があったよ。私か蒼と初めて会う夢!こんな邸に住んで…。」
私はルーズリーフに描き始める。
「これは…武家屋敷…かな?」
「えっ!そうなの!」
私は日本史が得意だがそこまでの知識はなかった。
「うん。この塀の感じは武家屋敷に近い気がする。この男性も武士の格好をしてるし。雪は武家の娘だった可能性があるね。」
私は感心する。
「じ、じゃあ近代とか古代の資料は返してくるね。」
「そうだね。」
司馬君は立ち上がろうとする。
「あっ、司馬君はいいよ!座ってて!できれば進めててほしいな。私、この図書館詳しいし!」
「そう?じゃあ、お言葉に甘えて。」
司馬君は資料の分別に入る。借りれる資料は限られている。良質な物を選ばなくてはいけない。

ーすごいな。もうあんなページまで。

私は彼を見た後、歴史に関する本棚に戻ることにした。







しばらく読んだ後に私は目がしょぼしょぼしてきたため、ステンドグラスを見つめた。

ー眩しい。けれど綺麗だな。

キラキラした光に魅せられ、ふと隣にいる彼を見た。

ー寝てる!

私は彼の可愛らしい寝顔を見て悪戯をしたい衝動にかられた。

「…ちょっとだけならいいよね?」
私は彼のほっぺたを指で突こうとする。

パシッ

ーえ、まさか、起きてた!?

私は彼に手を握られてた。

「…何?」
彼の目が鋭いものになってた。いつもの彼とは違い怖い。
「ごめん!寝顔が可愛いから悪戯をしたいなって…」

って、素直にこたえてしまった!ゴミがついてるとかもっと言い方があるだろうに!

「…お前、俺に何かしようと…したら…許さ…」
言い終わらないうちに彼は寝てしまう。

ーあれ?寝ちゃった?

私は彼を見つめる。穏やかな顔に戻っていた。

ー疲れてるのかな?

私は本を読むことにした。



「…ふぅ。やっと切りがついた!」
その後、十分後には彼も目覚めていた。
「お疲れ様。この資料を返しにいこうか。」
「なんだかあっという間だったな。ここの資料でも武家に関する内容は限られてたし。」
「そうだね。できればもっと…あっ、そうだ。文化!文化の方も見てみようよ!」
私は彼の意見を聞いて頷く。
「文化はあっちだね。行こっか。」
私は本の片付けは後にして歩く。
「あの本とか、いいんじゃないかな?」
「そうだね。あれにしようかな!」
私は軽く手をのばす。
「えっ、待って、危な…!」
彼の言葉が終わらないうちに本が次々と落ちてくる。私はくるであろう衝撃に耐えるため目を瞑る。

ーあれ?

その痛みがくることなく、私は目を開けた。
「大丈夫?」
私は司馬君に守られていた。
「えっ、ごめん!あの、大丈夫!?」
「大丈夫だよ。それより、君は無事?」
私は頷いた。彼は何事もないかのように本を拾い始めた。

「あれっ?」
私は開いてあった本のイラストを見て驚く。
「どうしたの?」
「これ、朔が言っていた夢の場所に似てる…。」
そこには露天で鉄を加工している人のイラストがあった。
「朔も夢を見てるの?」
私は頷く。
「火をずっと見てるんだって言ってた。でも、金曜日にこのイラストの場所に似た夢を見たって…。」
私達はそのイラストを見続けた。






ーー朔sideーー

「…と、いうわけでその申請は受理することはできないよ。」
俺は他の資料を見ながらそういった。
「えー!お願い!私達それがどーしてもしたいの!」
「したいなら前もってしてほしい。ともかく、予算上、お金がかかるものは受理できないんだ。お金がかからず、かつ安全なものにしてほしい。」

ー…言い過ぎたかな。

いつもより口調は刺々しいものだ。それもきっと、僕が不機嫌なのもあるだろう。

「まあ、さすがに花火とか、火扱うのは学校の責任問題で受理はできないし。別のドッキリを企画したらどうだ?」
生徒会長の武内はそういって彼女らをなだめる。彼女らもそれになんとか納得したようで渋々引き下がる。

「どうしたんだよ。らしくないな。」
こっそりと武内は僕にいってくる。
「別に。普通だよ。僕は元々こんなやつだ。」
資料の山に手をのばす。
「もしかして、幼馴染の彼女か?」
僕は資料を取ろうとしていた手を滑らせてしまった。
「あーあー。やっちまった。」
「…手が滑っただけだ。」
「動揺しすぎだ。」
僕は彼の頭を叩いて、床に落ちたプリントを拾う。

ー本当、こいつ油断ならないな。

生徒会長の武内は隣のクラスの奴だ。実質全学年の生徒からの人望は厚い。その上人の機微をみることに長けている。

ー確かに光のことで悩んでいる。

光は今司馬君と一緒に図書館にいる。生徒会室からは覗けないがまだいるだろう。

ーっていっても、会っても何もいえないが。

最近の彼女はよく笑うようになった。それがなんとなく悔しい。そのためか最近は彼女を避けている。

ー笑える。

「仕事ばかりしてると、青春を逃すぞ?」
武内はそういって資料を机の上におく。
「はっ?」
僕は口を開けて彼を見た。彼の言葉の意図がわからなかった。
「後悔とかそんなのないように生きろってことだ。」
僕はその言葉がどこかきにかかった。

「…武内。彼女に振られた………?」

「…………。なにもいうな。」

どうやら当たっていたようだ。